〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ボーイングが意地でも737MAXを運航再開させたいワケ

12月15日、ウォールストリートジャーナルはボーイングが運航停止中の737MAXの生産停止か更なる縮小を検討していると報じました。今年3月の運航停止以降、ボーイングは737MAXの生産自体は継続しているものの、納入のメドが立たないため工場の駐車場や一時保管の空港に輸送して置いている始末。2度目の墜落事故後の対応や安全認証でボーイング同様強い非難を受けたFAA(アメリカ連邦航空局)が安全審査に慎重を期し、「20年まで運航を再開しない」と表明しており、運航停止命令の解除時期は全く見通せないためです。

 

jp.wsj.com

 

www.nikkei.com

 

そして12月16日、ボーイングは正式に2020年1月からの737MAXの清算一時停止を発表しました。今のところ従業員のレイオフ(一時帰休)は行う予定はなく、生産再開は早くても2月か3月になる、としています。しかし、それもFAAの運航停止命令のかいじょしだいになり、ボーイングの思惑通りになるかは不透明です。ただでさえ悪化しているボーイングの業績に更なるダメージを与えることは必至ですが、既に保管中の737MAXは400機に達しており、このまま納入の見通しが立たない飛行機を生産し続けるのも限界がありますので、ボーイングにとっては「止めるも地獄、作るも地獄」の最悪の状態と言えます。

www.aviationwire.jp

 

trafficnews.jp

 

737MAXについてはアメリカン航空が来年4月6日まで運航を取りやめると発表したばかりであり、既にサウスウエスト航空も運航取りやめ期間を来年3月5日まで延長しています。もはや737MAXの早期運航再開は当てにしていないようですし、顧客サイドも「737MAXには乗りたくない」という人が多く、運航再開後も当分は顧客から避けられそうです。

www.traicy.com

 

 ↓737MAX問題についてはこちらの記事もご参照ください。

www.meihokuriku-alps.com

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 さて、既にボーイングにとっては「厄介者」となっている737MAX。顧客からの信用もガタ落ちで、運航再開のメドが立っていない。しかし今のところボーイングには「737MAXの運航再開を諦める」という選択肢はなく、意地でも早期の運航再開にこぎつけようとしています。例えば生産ラインを閉じたばかりの737NGの生産を再開し、当座の需要に応えるという手も考えられそうですが、その素振りもありません。なぜボーイングはここまで737MAXの運航再開にこだわるのでしょうか?考察してみました。

 

理由1 「在庫」の機体が多すぎる

前述の通り、既に737MAXは生産されたものの納入の目処が立たない「在庫」の機体が400機以上あります。これらの機体は帳簿上は「在庫」なので今のところ資産扱いですが、もし運航再開を諦めた場合、在庫の400機はいずれ航空会社に納入されて現金化される「資産」ではなく、二度と飛ぶことない鉄屑と言う「負債」に変わってしまいます。737MAXのカタログ価格は-8型で概ね百数十億円くらいですから、在庫の400機が売れない場合、ボーイングは4〜5兆円の売上が消え、在庫の737MAXの処分費用と減損処理がのしかかります。

ルフトハンザグループや中国南方航空の保有機数に匹敵する機体を処分するわけですから、兆単位の損失は免れないでしょう。これだけでもボーイングに737MAXの運航再開を諦めると言う選択肢はあり得ないのがお分かり頂けると思います。

 

理由2 737じゃないとダメな会社が多い

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ボーイング737は世界的に最も売れた旅客機であり、世界中で広く使用されています。アメリカのサウスウエストをはじめ、LCCを中心に737シリーズ一機種に絞る会社は多く、737の生産を終了して新機種を開発するとなると設備や乗員、オペレーションなどは一度リセットされてしまいます。

特に737シリーズを700機以上保有するサウスウエスト航空にとっては737の生産終了はビジネスモデルが根本から覆される死活問題であり、ボーイングにとっても737の終了と新機種開発は開発リスクの他にこれらの会社が他社に鞍替えするリスクも負うことになります。

実際、マクドネル・ダグラスの吸収時も旧ダグラス機、特に単通路機のMD-80、90シリーズを使用していた航空会社の半数以上は後継機に737ではなくA320シリーズを選択しました。737の使用歴が長いからといって新機種もそのまま買ってくれるとは限らず、これを機会にゼロベースで新機種選定を行う可能性の方が高いのではないでしょうか。

 

理由3 単通路機の市場が大きすぎる

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ボーイングの予測では今後20年間の需要予測は単通路機市場で3万1360機・3兆5000億ドル、双通路機市場で8070機・2兆5000億ドル。この数字をほぼボーイングとエアバスで分け合うと思って下さい。

このうち単通路機の市場は機数ベースで双通路機の3.9倍、金額ベースで1.4倍に達します。一年毎の平均だと年間1568機、1750億ドル。現実問題としてこの需要をエアバス一社で賄うのは不可能ですし、ボーイングとしても捨てていい数字ではありません。

短期的には737NGの生産再開で間に合わせられるでしょうが、他に単通路機のラインナップがない以上、737MAXを何としても運航再開させないといずれ世界の航空業界に大きな影響を与えてしまいます。そうでなくとも737NGは20年前に就航した機種であり、A320neoとの競争力の差は明らか。ボーイングとしてはエアバスとの対抗上、古い737NGよりは737MAXで戦いたいでしょう。

 

理由4 737MAXに代わる機体の開発に時間がかかり過ぎる

仮に737MAXを諦めたとしてもそれに代わる機体の開発には時間がかかり過ぎ、すぐには需要に対応できません。新型機を開発するにしても、その時間を稼ぐ為には737MAXを運航再開して新機種就航までの繋ぎにする必要があります。

現在ボーイングでは777Xの開発が進行中ですが、試験中の貨物ドア破損などで計画通りに納入されるかは不透明です。また、新たな中型旅客機として「ボーイング797(仮)」の計画がありますが、777Xや737MAXの問題もあってそれどころではないのが実情です。仮に新機種開発となると797計画を737の後継用単通路機に転用するのが一番現実的ですが、着手できるのは777Xや737MAXの問題を片付けてからでしょう。最低でも5〜6年の歳月が必要になりますので、その間を737NGの生産再開で繋ぐのか、737MAXを運航再開させて繋ぐかする必要があります。

 

 

以上、ボーイングが意地でも737MAXの運航再開をしなければいけない理由を考察しました。まあ、再開させないとボーイングは致命的なダメージを受ける事は何となく想像できると思いますが、こうして検証してみるとやはりボーイングはおろか航空業界全体に大きな影響を与えてしまうのが改めて分かりますね。

だからと言って安全性が保障されないのに運航再開させる訳には行きませんし、無理に再開させて3度目の墜落事故が起こってしまったらそれこそ737MAXはおろかボーイング自体が終わってしまいます。まずは安全性を実証した上で運航再開して欲しいなと思いますし、万が一運航再開が不可能な場合に備え、737NGの生産再開や新機種開発の検討をして欲しいですね。

 

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