〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ガルーダのCEOがデリバリーフライトでハーレーを「密輸」できたワケ

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12月8日、ガルーダ・インドネシア航空のイ・グスティ・ングラ・アスカラ・ダナディプトラ最高経営責任者(CEO)が、ガルーダが受領したエアバスA330-900neoのデリバリーフライトの際、ハーレーダビッドソンのバイク1台とブロンプトンの高級自転車2台を税関を通さずに持ち込もうとしたとして国税当局に摘発されました。

A330-900neoの1号機は11月17日にエアバス本社のあるトゥールーズからジャカルタまでデリバリーフライトされ、アスカラCEOも同乗していましたが、その際に提出された積荷目録や搭乗者名簿には「社長ら幹部と従業員だけが乗っている」と書かれていました。しかし実際には前述のバイクと自転車2台が積み込まれており、税関にも申告されていませんでした。

「密輸」はSNSの投稿で発覚したようで、これを受けてガルーダはアスカラCEOを含む幹部4人を解雇。アスカラCEOは2018年9月に就任したばかりでしたが、わずか1年3か月でその椅子を追われることになりました。インドネシアでは生活必需品の関税は低いもののぜいたく品の関税は最大200%と高額であり、今回の「密輸」で脱税した金額は最大15億インドネシア・ルピア(1160万円)だそうです。確かにそれだけ高額だと密輸したくなる気持ちも分からなくもないですが、それにしても一国のフラッグキャリアのCEOとしては余りにセコい理由でクビになったものです。

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さて、普通のフライトであればバイクや自転車のような大きな商品を税関の目に触れずに運ぶことはまず不可能です。空港で貨物室に入れる段階で税関検査がありますし、到着後も通関が待ち受けているので、普通は黙って持ち込もうとしてもどちらかで発覚します。そうでなくとも空港内に荷物を搬入する前にセキュリティチェックを受けますから、まずそこで荷物の存在がばれてしまいます。空港への搬入、飛行機への積み込み、到着後の通関と言ったいくつものチェックポイントを怪しまれずに通過するのはまず無理でしょう。

 

ところがデリバリーフライトだとそのハードルは幾分か下がります。恐らく今回の「密輸」もデリバリーフライトという「特殊なフライト」の盲点ををついて行われたものでしょう。ここから先は私の推測になりますので、話半分に聞いて頂ければと思います。

 

まず出発地はボーイングだとシアトル・ペインフィールドかチャールストン、エアバスだとフランスのトゥールーズから。つまり工場に隣接する空港から直接離陸することになります。もちろん、通常の空港同様セキュリティチェックはありますが、基本的にデリバリーフライトに搭乗するのは大半が受領した航空会社の従業員ですので、メーカー側もそこまで厳重にはチェックしないでしょう。件のガルーダの場合、バイクや自転車は分解された状態だったそうですから、「業務上使用する部品」と言えばそこまで怪しまれることはないかも知れません。通常のフライトよりも不審者リスクが低い分、予定外の荷物を持ち込む余地はあるという事です。

 

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次に到着地の空港ですが、流石に普通のフライト同様通関検査はあるはずです。しかしデリバリーフライトは基本的には航空会社の従業員しか乗っておらず、手荷物以外の荷物は載せていないと考えるのが自然。ましてや「荷物は積んでいない」と申告していますから、税関も「まあデリバリーフライトだし大きい荷物なんか積んでないだろう」とスルーされる可能性が高いです。さらに初号機のデリバリーフライトともなると到着後に機体のセレモニーやお披露目がある場合が多く、余計に貨物室の確認がしにくいので後回しにされる可能性が高い。そのどさくさに紛れて荷物をおろしてしまえば無事密輸完了。後は他の便の貨物や社内向けの荷物を運ぶトラックにでも紛れ込ませてしまえばいいでしょう。

実際のところ、そこまで上手く行くとは限りませんし、事実今回も最終的には税関にバレています。しかし、不特定多数の乗客が乗る通常のフライトと違い、関係者しか乗らないデリバリーフライトは「まさか航空会社の社員が不正はしないだろう」という一種の「性善説」に基づいて通常程はチェックは厳しくないかも知れませんし、多少は隙があるのではないかと思います。とは言え、今回の事件はその航空会社の「信用」を悪用した行為ですから、やはり解雇は当然でしょう。アスカラ元CEOも手腕を買われてその地位についただけに、モラルの面でもしっかりして欲しかったなと思います。いくら優秀な人でも社会のルールを守れない人では意味がありませんから・・・

 

 【12月13日追記】

もう少し詳しい記事が出て来ました。特にアスカラCEOについて詳しく書かれています。それによるとアスカラ氏は国営の建設会社幹部や国営港湾会社の社長を務めた経歴を買われて2018年にガルーダのCEOに就任しましたが、長時間労働の強要や不当な配置転換など、経営合理化の旗印のもと乗務員に過大な要求をし、組合を中心とした従業員からの評判は悪かったようです。今回に限らず、航空会社の乗務員は制服を着ている事や身分証を下げている事から出入国管理や税関のチェックは比較的チェックが緩やかな事から、「密輸」をする乗務員は後を絶たないようです。

しかし、本来であれば従業員の「密輸」を問題視し、やめさせなければならないはずのCEOが自ら率先して「密輸」したわけですから、ある意味早いうちに追い出せてよかったのかも・・・

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↓デリバリーフライトでハーレーを持ち込むにしてもプラモデル程度にしておけば良かったのに・・・

 

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