〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

両備グループバス廃止問題のその後 ~動き出した岡山市の公共交通再編~

 

・バス廃止問題から1年半、あれからどうなった?

昨年の2月に岡山県などで路線バスや鉄道などを運航する両備グループが、八晃運輸の「めぐりん」益野線参入に反発して赤字バス路線31路線の廃止申請を出した問題から1年半が経ちました。当ブログでもこの問題を3回取り上げましたが、2018年4月以降、この問題を取り上げることはありませんでした。今回はこの問題を継続して取り上げなかった自らへの自戒も込めつつ、その後の両備グループバス廃止問題を取り上げて、改めてこの問題を考えていきたいと思います。

 

↓以前の記事はこちらをご覧下さい。

www.meihokuriku-alps.com

 

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・法定協議会の議論で動き出した岡山市のバス再編

まずは2018年4月以降のこの問題の進展について見ていきましょう。2018年5月27日に「岡山市地域公共交通網形成協議会」の第一回の協議会が開催され、岡山市内の交通事業者や町内会・婦人会などの利用者代表、国交省・岡山県・岡山市と言った行政関係者が参加しました。これは両備グループのバス廃止問題をきっかけに開催が決定されたもので、岡山市の公共交通の在り方を協議し、解決のための法定計画を策定するための「法定協議会」。今回は公共交通と言っても路線バスの再編問題が議論の中心で、持続可能な路線バス網の再構築や不採算路線の維持の方法、議題の中心ではありませんが問題の発端となった新規参入問題や内部補助による不採算路線維持の在り方、運転手不足による路線廃止と言った問題も議題に上がりました。

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 8月24日に開かれた第二回協議会では「これからの公共交通の方向性について」議論が行われました。利用者の減少や事業者間の過当競争と言った問題に加え、便数の少なさやバス路線や時刻の分かりにくさと言った問題を解決する為、「誰もが利用しやすい公共交通サービスの提供」「公共交通の経営の健全化・安定化」という目標を設定し、「幹線+支線」と言った路線網のハブアンドスポーク化や連接機能の強化、事業者間のダイヤ調整やバスの方面別の見える化やバリアフリー化などを進めて「利用しやすい公共交通サービス」を目指す、としています。

協議会の資料を見て見ると、岡山の都心から地域の拠点までは幹線バスを高頻度で運航し、拠点から地域内の各生活圏を結ぶ支線系統を小型バスや乗り合いタクシーで新設してつなぐことで交通の利便性を確保するという未来図が描かれています。持続可能な公共交通の在り方としてはこれがベターな方法だろうと思いますし、よく考えられているなと言う印象です。

www.city.okayama.jp

 

そして2019年4月11日に開かれた第三回の協議会では、前回掲げられた目標実現のための施策について課題などが議論されました。また、実際のケーススタディとして両備バスの岡南方面と下電バス・岡電バスの2社が運航する妹尾方面の路線を対象に再編の具体案を示し、9月末をめどにマスタープランの策定を行う予定です。重複して岡山駅まで運行されている系統を幹線一系統のみの運行に再編し、他の路線は乗り換え拠点からの支線系統に変更するというもので、試算ではそれぞれ年間2000万円程度の経費削減を見込んでおり、路線キロ削減で人員的にも余裕が出るとしています。本数削減や一部系統の乗り換えなど利用者側にはデメリットも予想されますが、再編で出た余力を経営の安定化や別路線の拡充に廻すことで利用者にも再編の恩恵が受けられるとしています。

www.city.okayama.jp

www.nikkei.com

 

協議会の資料を見る限りだと単なるポーズではなく、岡山市の公共交通の在り方や事業者の健全経営を本気で考えているなと言う印象です。バス事業者の多い岡山市では各社が同じ路線で競合するケースも多く、事業者間の仲もいいとは言えなかったので、岡山市全体で公共交通を考える旗振り役が不在でした。そう考えると法定協議会での議論で「幹線+支線への路線網再編」「事業者間のダイヤ調整」「利用しやすい公共交通サービス」という方向性が打ち出されたことは大きな意義があったのではないかと思います。そういう意味では手段はともかく、議論の場を設けることにこぎつけた両備グループには先見の明があったと言えるでしょう。もっとも、そこまで強硬な手段に訴えないと行政や事業者が動かなかった、と言うのも考え物ですが・・・  

 

 

 ・両備vs八晃のその後

問題の発端となった「めぐりん」益野線ですが、両備側は参入を認めた国の手続きに不備があるとして益野線の認可取り消しを求める訴訟を東京地裁に起こしました。今年5月には両備HDの小嶋会長が法廷に立ち、今の制度のままでは全国で黒字路線の取り合いになり、地方の生活路線は維持できなくなって半減すると、公共交通の存続にかかわると危機感を訴えました。一方の国は「両備HDは原告としての適格がない」として却下を求めています。訴訟は現在も係争中で、8月30日には判決が出る予定です。「めぐりん」益野線参入問題についてはこの裁判の判決が一つの答えになりそうですので、判決が出たら改めて紹介したいと思います。

 

www.sankei.com

 

【8月30日追記】

上記の訴訟の判決が出ました。結論から言いますと両備側の全面敗訴です。

両備側の「道路運送法に違反している」という主張については「道路運送法や関係法令に、既存業者の営業上の利益を保護する趣旨の規定は見当たらず、両備グループには原告適格がない」と、違反の是非以前にそもそも両備には原告の資格がないとされました。両備側の全面敗訴と言ってもいい判決です。

判決について両備側は「結果は非常に残念に思うし遺憾」としており、今後の対応を検討するとしています。両備側にしてみれば門前払いだった今回の判決は到底受け入れられないでしょうが、かと言ってこの判決をひっくり返せるほどの材料があるとは思えません。残念ながら、法律に基づいて判断する裁判所にしてみれば両備側の主張である新規事業者の黒字路線狙い撃ちや「黒字路線で赤字路線の損失を埋める」バス業界の事業構造は事業者間の問題であり、法令違反とは別問題という認識だったのでしょう。

八晃側の認可取り消しが困難になった以上、両備側は次の一手を考える必要があります。法定協議会で持続可能な公共交通の在り方を模索する一方、八晃憎しの今のやり方を変える時期に来ているのではないかと思います。今回の判決で事実上、既存事業者の利益の保護が否定されたことで両備側の立場は苦しいものになったと言えます。個人的には地方交通の維持を真剣に考えてくれている両備を推したいところですが、今のままではいずれ両備グループが「既得権益にしがみつく既存事業者」と見られてしまうかも知れません。そうなる前に何か手を打つ必要があると思いますが、果たして両備の次の一手はどうなるか、今後の発表に注目していきたいです。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

 

 

最後に両備、八晃双方のその後について。まず両備側ですが、「地方バス路線網維持・発展に向けた特設情報サイト」をグループのHP内に開設して両備側の見解やお知らせなどを掲載しています。しかし、サイトの更新は2018年5月21日の第一回法定協議会で止まっており、その後の協議会の進展や八晃との訴訟の状況、小嶋代表のメッセージなどは掲載されていません。正直言うとあれだけ世間に問題提起したのであれば、見る人が少なかったとしてもその後の経過やメッセージは発信し続けて欲しいなと思います。係争中の裁判を抱えているからあまり表だって発言できないのかも知れませんが・・・

 

www.ryobi-holdings.jp

 

一方の八晃運輸側ですが、益野線運行開始前はほぼ沈黙と言った感じでしたが、両備とは逆に運航開始後は「めぐりん」のHPなどを通じて自社の言い分を主張しているようです。両備側の赤字路線廃止と言う「奇策」ですっかり悪者扱いされてしまい、自分達の主張を発信しなければ立場が悪くなると考えたのでしょう。

八晃側の言い分としては「益野線は法令に基づいて適法かつ適切に認可申請したものであり、要件を満たしていると判断されたから認可されたもの」「不採算路線の維持に黒字路線の収益が充てられるのは利用者の利益保護・利便増進の面から見ても賛同できない」「不採算路線の維持は行政による支援で行うべきであり、黒字路線の競争と赤字路線の維持の問題は切り離して考え、利用者の利益に資する方向で議論されることを望む」と、両備の「競争による値下げよりも路線網の維持を重視」「少ない黒字路線への参入は消耗戦となり、事業者の体力が奪われると内部補助による不採算路線の維持ができない」という主張と真っ向から対立しています。

また、八晃側は岡山駅東口広場への「めぐりん」乗り入れを求めていますが、両備側の反対で実現していません。これについても八晃側は「一部事業者が東口広場を独占的に使用している既得権を維持しようとして反対している」として反発しています。

 

news.megurin-okayama.com

 

・岡山のケースは地方の公共交通問題の縮図

八晃側の主張は競争原理の観点から見れば正しいと思います。「黒字路線の利益は黒字路線の利用者に還元されるべき」という言い分は高速道路の料金プール制で他の高速道路の償還も負担している名神高速道路などのドル箱路線のケースや、国鉄時代に東海道新幹線の利益が地方路線の赤字の穴埋めに使われて新幹線の再投資に使われず、競争力を落としていった例もありますので、八晃の主張にも一理あります。

しかし、地方の公共交通維持は事業者の自助努力でどうにかできる問題ではなく、両備の言うように1980年代のイギリスが公共交通に「競争原理」を持ち込んだ結果、地方の不採算路線は法外な運賃になって路線網全体の健全性と公共性が損なわれたという事例もあるため、地方の公共交通を考える観点からは両備の主張の方がより持続可能な将来を描けるのではないかと思います。

 

いずれにせよ、地方の公共交通網維持の問題は早急に手を打たなければいけないものであり、今回の岡山市の法定協議会が一つのモデルケースになるのではないかと思います。この法定協議会で全ての問題が解決できるとは思えませんし、事業者間の対立が解消できるわけでもありませんが、それでも解決に向けた一つの答えは出してくれるのではないかと期待しています。今後の議論の進展とケーススタディーの実現を見守っていきたいですね。

 

 ↓両備グループの小嶋代表の地方交通再生や街づくりへのグランドデザインを通して地方交通の現状と課題を書いた本。決して全面的に賛同しているわけではないですが、公共交通維持への小嶋氏の熱意は本物ですし、応援したいなと思います。

 

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