〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

デルタ航空「成田撤退」正式に決定・・・ノースウエスト時代から続くハブ機能、終焉へ

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一部ニュースサイトの記事によると、デルタ航空の本社のあるアトランタの地元紙が、デルタが2020年夏の東京オリンピックまでに成田空港から完全撤退する計画だと報じました。ここ数年、成田発の路線を縮小し続けてきたデルタ航空は何度も「日本市場縮小」「成田撤退」が囁かれてきましたが、遂に現実のものとなってしまいそうです。

sky-budget.com

 

【8月10日追記】

5月に仮承認されたアメリカ運輸省の羽田発着配分の正式承認を受けて、デルタ航空が成田空港の発着機能を羽田空港に移転すると正式に発表しました。来年3月の羽田発着枠増加と同時に成田~マニラ線を含むすべての路線を廃止し、羽田路線に集約することになります。また、成田~マニラ線の代替として仁川~マニラ線を開設する予定で、名実ともにデルタのアジアハブは仁川に移る事になります。

一方で羽田発着路線は7路線、一日7往復を運航することになり、羽田発着のアメリカ航空会社としては最多の便数を運航することになります。ハブ機能が無くなる分、今後は日本市場やアメリカ側の乗り継ぎも考慮したダイヤが組まれる可能性もあります。

www.traicy.com

 

news.delta.com

ちなみに、デルタの英語版サイトによると、使用機材はアトランタとロサンゼルスが777-200ER、デトロイトとミネアポリスがA350-900、シアトルがA330-900neo、ポートランドがA330-200、ホノルルが767-300ERと見事に分かれており、大抵の長距離用機材が羽田に来ることになります。特にシアトル線に投入されるA330-900neoはまだデルタには2機しかいない最新鋭機。A350-900と合わせ、新型機を優先して日本路線に入れるあたり、デルタの力の入れようが分かりますね。

 

デルタの成田路線は元々はパンナムと並び太平洋路線を運航してきたノースウエスト航空が築き上げたアジア地区のハブでした。日本からの以遠権を行使してソウル、上海、台北、香港、マニラ、バンコク、シンガポールなどアジア各地に広大な路線網を築き、日本でもノースウエストの知名度は高いものでした。アメリカのみならず、アジア各地への旅行にノースウエストを利用したという方もいるのではないでしょうか。2002年以降はアジア路線やグアム・サイパン線用にエアバスA320やボーイング757を常駐させて運航し、日本支社には運航管理部門を置いたりボーイング747の整備拠点を設けたりと、ノースウエストにとって成田は「アジアのハブ拠点」と言える存在でした。

 

デルタと合併した後もしばらくは成田は太平洋路線の拠点空港であり続けました。2011年のデルタの成田路線は週196便(1日平均28便)が運航され、外国の航空会社としては最多、全体でもJALとANAに次ぐ3番目の便数を誇りました。2014年10月には成田空港の格納庫の使用契約を結び、「成田オペレーションセンター」を開設するなど引き続き成田を太平洋路線のハブとして重要視するかに思われました。

 

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しかし、2010年10月の羽田空港の再国際化がデルタの成田ハブの地位を脅かします。都心から近い羽田からのアメリカ直行便が開設されればデルタの成田ハブが脅かされるばかりか、国内線からの乗り継ぎが容易になるため日本側の提携相手を持つユナイテッドやアメリカンが俄然有利になってしまうため、デルタは羽田発国際線の拡大に難色を示しました。羽田の発着枠を20便以上要求したり、成田撤退をちらつかせたり、果ては経営破たんしたスカイマークの再建スポンサーに手を上げたりとあの手この手で権益確保に走りますが、上手くは行きませんでした。2014年に羽田発の昼間の中長距離国際線が解禁された後もアメリカ路線だけは2年間拡充されませんでしたが、これもデルタが強硬に反対して調整が出来なかったためでした。

結局、アメリカ路線の配分は2016年になって実現し、デルタは2枠を割り当てられましたが、成田路線を移すには不十分であり、他の会社が歓迎のコメントを出す中デルタだけは否定的なコメントを出すなど、不満を隠そうとはしませんでした。

 

そして、この辺りからデルタの「成田離れ」が始まります。2016年10月にはニューヨーク、ロサンゼルス、ミネアポリス(羽田移管の為)、バンコク、関西の5路線を一気に廃止したのを皮切りに、2017年5月に台北線を、2018年1月にはグアム線を廃止。5月にはサイパン線とパラオ線も廃止して常駐していたボーイング757も引き上げました。さらに7月には上海線も廃止してデルタの成田便は週53往復と最盛期の4分の1にまで縮小してしまいました。

そして2019年5月、羽田空港の発着枠拡大に伴うアメリカ路線枠の配分で、デルタ航空は申請していた5路線6便分のうち、ホノルル線一往復を除く5路線5便分が認可されます。これによってかねてより噂されていたデルタの羽田拠点化、成田撤退が現実味を帯びてきましたが、この時私は「以遠権を持つシンガポールとマニラの権益維持の為、アトランタかデトロイトのどちらかは成田に残すかもしれない」と予想しており、完全撤退までは行かないだろうと思っていました。

 

※その時の記事と予想はこちらをご覧下さい↓

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しかし最近、成田~シンガポール線が9月22日で廃止されるとの発表があり、次いで成田~マニラ線の来年4月以降の航空券販売を中止するとのニュースが流れました。この2路線の廃止でデルタの成田発アジア路線は消滅し、ノースウエスト時代から維持してきた日本からの以遠権を行使した路線も消滅することになります。そして今回の成田撤退報道。どうやらデルタは日本からの乗り継ぎ需要は諦め、日本市場は日本~アメリカ間の旅客移動に専念するという事になりそうです。

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その一方でデルタは同じスカイチームの大韓航空との協力関係を強化し、2018年から太平洋路線での共同事業を開始します。太平洋路線の全路線でコードシェアを実施し、アジア各地へは大韓航空の路線網を利用するなど、事実上、アジアのハブ機能を成田から仁川に移したようなものでした。今回の成田発アジア路線の廃止はノースウエスト時代から続いてきたデルタの成田ハブが名実ともに終焉することを意味しています。

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まだ一部報道のみなのでデルタ側の正式発表を待たなくてはいけないと思いますが、羽田発着枠が配分された時点でこうなる事は既定路線だったのかも知れません。

デルタ側から正式に発表があった事で、デルタの成田撤退→羽田集約は決定的となりました。個人的には伝統のハブ機能が消えてしまうのは残念ですが、日本側に協力相手がいないデルタはむしろよくここまで持ちこたえたなと思います。

それに、今年に入ってデルタは関空~シアトル線を開設しましたし、2017年にはいち早く最新鋭機のエアバスA350-900を日本路線に投入しました。相次ぐ路線縮小は日本市場軽視と取られても仕方ないと思いますが、本当に日本路線をどうでもいいと思っていれば新路線を開設したり、最新鋭機を真っ先に日本路線に入れたりはしないでしょう。乗り継ぎ拠点としては必要性が無くなっても、デルタにとっては日本市場は有力なものである事に変わりはありません。むしろハブ機能が無くなる分、より日本市場やアメリカ側の乗り継ぎを重視したダイヤを組むことが可能となりますので、むしろ利便性は上がるのではないでしょうか。

羽田集約でアメリカへのアクセスはむしろ良くなりますし、デルタにしても客単価の高いビジネス客を確保するには羽田集約はむしろプラスになるのではないかと思います。今回の羽田集約はデルタにとっては大きな転換期になるのは間違いないでしょう。ネガティブな面ばかりが注目されてしまうデルタの日本路線縮小ですが、長年日本とアメリカとの懸け橋になってくれたのもまた事実。形は変わっても、これからも日本路線を大事にして行って欲しいなと思いますし、我々利用者もデルタが本当に日本市場を見限らないよう、機会があれば利用していきたいですね。

 

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【8月6日追記】

デルタの成田撤退を報じるネットニュースが増えてきました。やはり来年夏スケジュール以降の羽田発着枠配分に合わせて成田からは撤退し、羽田に一本化する見通しです。アメリカ運輸省(DOT)の発着枠配分の正式決定後に発表する見通しで、今回デルタに有利に配分されたのもノースウエスト時代からの日本への投資や、日本側のパートナーがいないことが考慮されたようです。

ノースウエストやデルタが広大な路線網を維持していたのも自社でアジア各地への「際際乗り継ぎ」を重視していたからですが、航空機の航続距離が延び、アジア各地への直行便が開設されて成田乗り継ぎの必要性が薄れた事、またデルタの場合は大韓航空とのJVが軌道に乗って来たのも成田ハブ撤退を決めた理由の一つなのではないかと思います。いずれにせよ、今のデルタの路線規模では成田と羽田に分散するのは非効率であり、羽田集約は必然だったのかも知れません。

 

成田撤退が濃厚となった今、今後は成田空港にあるデルタの格納庫をどうするかが問題ですが、デルタは自社以外にも複数の航空会社の整備委託を受けており、スカイチームの盟主として成田に移ったからと言ってすぐに辞めるわけには行かないのではと思います。当面はそのまま続けるのではないかと思いますが、それもいずれ成田に就航するスカイチーム加盟会社のどこか(恐らくKEかCIだと思いますが)に委託するのではないでしょうか。

そして成田からデルタが去ったと言っても、デルタが日本市場を軽視するわけではなさそうです。羽田移転を機に日本市場を強化する方針で、今後は乗り継ぎ需要を考慮しなくて良くなる分、都心に近い羽田の利便性を最大限アピールしてビジネス需要を取り込んでいくのではないでしょうか。羽田に移ってもデルタには引き続き日本とアメリカの懸け橋であり続けて欲しいですね。

 

www.aviationwire.jp

 

↓成田空港を発着する飛行機のマーキング図鑑。表紙にはデルタの飛行機が写っていますが、成田では当たり前だったこの光景も来年には過去のものになってしまうのでしょうか・・・ 

 

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