〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

三菱重工のCRJ事業買収はMRJ巻き返しの切り札か、それとも「終わりの始まり」か

 5月30日にMRJの名称変更報道に関して少々辛辣なタイトルで記事を書きましたが、それから一週間後、MRJに関して更に大きな報道がありました。

 

↓先週書いた記事はこちらを参照して下さい。

www.meihokuriku-alps.com

 

 

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6月5日から6日にかけて、報道各社が「三菱重工業がカナダのボンバルディア社のCRJ事業を買収」というニュースが駆け巡りました。三菱重工も「当社グループが発表したものではない」としたものの、ボンバルディアとの交渉自体は認めており、少なくとも買収交渉がされていることは事実の様です。

航空機メーカーとしてはボーイング、エアバスに次ぐ第3位の規模を持っていたボンバルディアでしたが、近年は社運をかけたCシリーズが開発費高騰とセールスの低迷で苦戦、さらにボーイングとアメリカ政府の圧力などが響いて経営が悪化していました。

主力商品になるはずだったCシリーズは事実上エアバスに売却されてエアバスA220となり、残ったCRJとダッシュ8も設計の古さで商品競争力が低下して販売は低調と、ボンバルディアの航空機事業は将来性が見出せなくなっていました。昨年にはダッシュ8事業をカナダの航空機メーカー、バイキングエアに売却し、残るCRJ事業も他社への売却を模索していたようです。今回のCRJ売却が実現すればボンバルディアは航空機ビジネスから事実上撤退することになり、主力の鉄道車両事業に注力することになります。

 

www.jiji.com

 

www.mhi.com

 

一方、三菱重工のMRJ事業は当初2013年の納入を予定していましたが、こちらも開発遅延で開発費は高騰、当初は好調だったセールスも最近では度重なる遅延が響いてぱったりと止まりました。さらにCシリーズのエアバス売却や、エンブラエルの民間機事業のボーイングへの事実上の売却など、航空機産業は更なる巨大化、寡占化が進んでおり、MRJを取り巻く環境は厳しくなる一方でした。MRJよりも後に就航するはずだったエンブラエルE2にも先を越され、商品力も低下している中での今回のCRJ事業の買収は、航空機産業では必要不可欠な販売ルートやメンテナンス体制などを手に入れてMRJのセールス強化につなげたいという思惑があっての事でした。

 

CRJシリーズの受注残は今年3月末現在で51機しかなく、CRJ事業自体の将来性は明るいものではありません。しかし、過去にCRJを販売した顧客との繋がりができる事で将来の代替セールスにMRJを売り込めますし、世界中に広がるボンバルディアの整備ネットワークを活用できるのは大きな魅力です。

現在、整備などのアフターサービスはボーイングとの間で委託契約を結んでいますが、そのボーイングはエンブラエルの小型機事業を買収した事で先行きは不透明になっています。CRJ事業の買収は自前でのサービス網を持ち、ボーイングとの契約が打ち切られたとしてもアフターサービスを維持できる体制を構築する意味もあります。

 

また、アメリカ国内でリージョナル運航会社のジェット機を「座席数76席以下、最大離陸重量3万9000kg以下」に制限する「クローズ・スコープ」の規制緩和が実現しなかった事で、リージョナルジェットを製造する各社は対応を迫られています。エンブラエルのE2シリーズは一番小さい「E175-E2」でも4万4800kgと規制をクリアできず、設計の見直しを余儀なくされています。

MRJも航続距離の短い基本型は規制をクリアしているものの、航続距離延長型は規制ギリギリ、超長距離型は重量規制をクリアしていません。エンブラエル程ではないにしても設計の変更は必要ですが、CRJの方は70人乗りのCRJ700型が規制をクリアしており、三菱重工がCRJを買収すれば当面の繋ぎとしてCRJ700型を販売してしのぐ事が可能。アメリカ市場向けに70席急に注力しようとしている三菱重工に取っては良い買い物であると言えます。
www.aviationwire.jp

 

とは言え、CRJ事業の買収は大きなリスクを抱えている事も事実です。一部報道では買収金額は数百億程度と言われていますが、既にMRJ開発費に数千億もつぎ込んでいる中での今回の買収は財務的にさらなる重荷になる可能性があります。万が一、買収金額が一千億円を超えるようなら収益性の良くないCRJ事業は三菱重工に取って新たな経営の重荷になりかねません。

加えて、買収される側のCRJ事業の従業員と三菱重工との社内融和も大きな課題です。彼らにしてみればエアバスに買われたCシリーズや国内メーカーに買われたダッシュ8に比べると、完成機メーカーとしては後発・新参の三菱重工は身売り先としては「格下」です。一方の三菱重工は国内的には名門中の名門であり、造船やロケット、ガスタービンなども手がける総合重工業メーカー。そのプライドがCRJ側との社内融和の障害となる可能性もあり、両者の間で不協和音が出れば人材流出にも繋がりかねません。

 

買収が合意に達したとしても、まだ越えるべきハードルはいくつもあり、その調整や再構築に人や時間を取られ、MRJの開発に影響が出るという本末転倒な事態になる可能性も考えられます。

しかし、今のままではジリ貧なのも事実であり、CRJ事業買収は三菱重工に取って完成機メーカーとして生き残るための大きな賭けになりそうです。正式発表があるとすれば6月17日からのパリ・エアショーが有力視されており、そこでこれからの三菱重工とMRJの将来図が見えて来るかも知れません。まずはその発表を待ちたいところです。

 

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