〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

日本に影響を与えた海外のLCC

東海道交通戦争、今回は日本のLCCについて取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章⑤「和製LCC三国志」

 

一般的にはピーチ、ジェットスタージャパン、エアアジアジャパンが相次いで就航した2012年を「LCC元年」と呼んでいますが、実際のところはその前から海外のLCCが日本に就航しており、海外LCCが相次いで日本に就航して勢力を広げたことが、ANAやJALにLCC設立を決意させたと言えます。今回は和製LCC設立に影響を与えた海外のLCCを紹介したいと思います。

 

①ジェットスター(オーストラリア・カンタス系列)

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カンタス系列のLCCとして2004年3月25日に運航を開始し、2007年3月25日にカンタスの路線を引き継ぐ形で関空ーブリスベンーシドニー線を開設。日本に就航したLCC第1号となりました。

動画内でも紹介した通り、大手レガシーキャリア系列のLCCは今までのビジネスモデルの感覚のままLCCを運営したため失敗しましたが、ジェットスターはカンタス本体と経営を分け、一切運営に口出しをしなかったことで成功を収めた初めてのレガシー系列LCCとなりました。また、大型機を使用して中長距離路線で成功した初めてのLCCでもあり、エアアジアXやスクートと言った他の中長距離LCCの設立にも影響を与えるなど、多くのLCCに影響を与えたパイオニアの一社とも言えます。

LCCでありながらパッケージツアーの卸売りやJALを始めとしたレガシーキャリアとのコードシェアも行うなど、LCCの原則にはあまりこだわらない方で、ジェットスタージャパンもジェットスター本体の方針には固執していないようです。日本路線就航当初は関西地区や中部地区で大々的にテレビCMを行った事で海外のLCCでありながら日本での知名度はある方で、これがジェットスター・ジャパンの設立にもつながったのかなと思います。

 

②エアアジア(マレーシア・独立系)

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元はマレーシアの政府系重工業企業傘下の航空会社でしたが、業績悪化で2001年にワーナー・ミュージックアジア地域役員だったトニー・フェルナンデスにわずか1リンギットで売却。そこからLCCに転換して徹底した格安運賃で急速にシェアを拡大、2004年にタイとインドネシアに子会社を設立し、2007年には中長距離路線用の「エアアジアX」を設立するなど、急速にアジア各地に路線網を広げています。

日本路線には2010年12月に羽田ークアラルンプール線で就航。羽田空港初のLCCとして話題となり、5000円の就航記念キャンペーン価格もメディアの注目を集めました。「エアアジアX」の名前はX Japanから取ったり、オリックスが10%を出資するなど、エアアジア・ジャパン就航以前から日本との関りがある航空会社です。

初代エアアジア・ジャパンはANAとの考え方の違いで1年余りで運航終了となってしまいましたが、2014年に第二のエアアジア・ジャパンを設立して日本市場再参入を表明。この時は楽天や化粧品大手のノエビア、大手スポーツ用品販売店のアルペンが出資しています。特に楽天はトニー氏と三木谷会長の個人的な親交もあって全面的に協力する姿勢を示しています。就航までには3年以上かかりましたが、2017年10月にようやく中部―札幌線に就航しました。

 

③春秋航空(中国・独立系)

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2004年に設立され、2005年7月18日に初就航した中国初のLCC。国際線に参入したのは2010年7月、上海浦東ー茨城間の定期チャーター便でした。現在では日本9都市に就航し、路線網も東アジアや東南アジアに広がっています。

日本への就航は前述の通り上海ー茨城線。当時は開港間もない上に就航路線がないと騒がれていた茨城に就航した事でメディアの注目を集めることになり、就航後も売り子役に徹するCAや、唯一の無料サービスともいえるエコノミークラス症候群対策の体操などで度々メディアに取り上げられるようになりました。

その後、日本への海外旅行需要の急増の波に乗って急速に路線網を増やし、遂には日本でLCCを立ち上げることになります。そのLCC「春秋航空日本(スプリングジャパン)」は思うように路線網を広げられず、存在感が薄いものの現在も成田発着の国内線、国際線を中心に運航しています。

 

④ライアンエアー(イギリス・独立系)

1985年にアイルランドで設立されたLCCで、当初は普通の航空会社でしたが、1997年のEU航空自由化を機に格安路線に舵を切り、超が付くほどの格安運賃で急成長を遂げた欧州LCCの代表格。そのビジネスモデルはLCCの元祖・サウスウエスト航空のものを忠実に守っていますが、その一方で就航先の空港に着陸料の大幅割引や補助金を要求し、十分な支援が受けられないと判断するとすぐに撤退したり、競合他社に対して露骨なネガティブキャンペーンを行うなど、物議を醸したり、他の航空会社に訴えられたりすることもしばしば。世間の注目を集めるために立ち乗りや機内トイレの有料化などあり得ない提案をするなど、好き嫌いがはっきり分かれる航空会社です。

これも動画内で触れましたが、ピーチ社長の井上慎一氏が会社を立ち上げる際、一番参考にしたのがライアンエアーでした。賛否両論はありますが、利用者に媚びない、エッジの利いたブランドを持つライアンエアーのポリシーはピーチのビジネスモデルを構築する際に大いに参考にしたそうです。言われてみればピーチのサービスやキャンペーンはエッジの利いたものが多いような気がします。たこ焼きの機内販売とか関西弁のアナウンスとかBMW MINIを機内販売するとか。ライアンの物議を醸すようなことまでマネしなくてよかった。

 

以上、日本に影響を与えたLCCについて紹介してきました。この他にも日本にはタイガーエアやスクート、エアプサンやジンエアー、チェジュ航空に香港エクスプレスなど様々なLCCが乗り入れてきています。関空や成田、佐賀などLCCのおかげで利用者減の危機を回避できた空港も多く、もはや日本の航空業界はLCC抜きでは成り立ちません。その一方で日本にはまだLCC空白地帯ともいえる地域が少なからずあります。仙台以外の東北や北陸、山陰地方などはLCCの就航が海外の会社も含めてあまりないので、今後はそう言った地域にもLCCの恩恵が広がればいいなと思います。想像もしなかった路線や格安運賃で利用者を驚かせてきたLCC各社。次はどんな驚きがあるのでしょうか。