〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

世論を味方につけた両備と敵に回したJR九州の差

当ブログで何度も取り上げている両備グループの問題。先日、岡山市の地域交通の在り方を示す「地域公共交通網形成計画」策定に向けた法定協議会の初会合が開かれました。

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予想通りバス事業者間にも温度差はありますが、今後の公共交通の在り方を考える協議会の設置にこぎつけたのは両備グループの運動の大きな成果と言えます。慢性的な利用者減少に加え、バス運転手の不足で路線の維持が困難になり、路線休止になるケースも出始めており、地方の公共交通問題は待ったなしの状態。各事業者の思惑はあると思いますが、是非議論を深めて今後のモデルケースとなるような解決策を見出して欲しいと思います。

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一方、今年3月のダイヤ改正で大規模な減便に踏み切ったJR九州ですが、改正後も余波は続いており、5月には九州各県からダイヤの見直しの要望が出され、JR九州は7月14日の久大本線の復旧に合わせてダイヤの一部修正や列車の増結を行う方針を示しました。路線の復旧時に合わせてとは言え、ダイヤの修正に応じざるを得なかったのは、減便で通学に支障が出たという声が無視できないくらい多かったという事でしょう。

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昨年12月の減量ダイヤの発表以降、九州各県では利便性低下による客離れや通勤、通学への悪影響を懸念する声が多く、沿線自治体も猛反発しましたが、結局は一部の修正には応じたものの、基本的には当初の内容通りの減便となりました。

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両備グループの訴えもJR九州の減便も、根本にあるのは慢性的な利用者減少と交通事業の採算性悪化であり、このままでは路線の維持ができないという危機感から起こした行動です。しかもJR九州は減便だけなのに対し、両備は大規模な路線廃止(のちに撤回)とストと、両備の方がより深刻で利用者への影響が大きいもの。おまけに両備の場合はドル箱路線への参入認可に対する反対という、見方によっては参入妨害で世論の反発を招きかねない案件です。にも拘らず両備グループは支持する人が多かったのに対しJR九州は大きな反発を招きました。この違いは一体何なのでしょうか。

 

  

1.今まで積み上げてきた実績と印象の差

両備グループと言うと和歌山電鉄設立による南海貴志川線の引き受けを始め、三重県の津エアポートラインの設立や、経営不振に陥った中国バスの再建、最近では破産した井笠鉄道バスの事業引き受けなど、地盤である岡山県以外でも公共交通の引き受けに積極的な事で有名です。

特に和歌山電鉄の再建は動物駅長の元祖ともいえる「たま駅長」の起用や「いちご電車」「おもちゃ電車」など列車そのものに魅力を持たせるなどして沿線の魅力を高めて乗客を増やし「地方ローカル線再生のモデルケース」として度々メディアにも取り上げられるほど。グループ代表である小嶋光信氏も「地方公共交通の再生請負人」としてその名を知られており、公共交通を地域社会をつなぐ「血管」ととらえ、社会的弱者の為にも公共交通の維持が必要と言う信念の持ち主です。

公共交通の維持に人一倍努力し、再生を成し遂げてきた両備グループだったからこそ、突然の廃止申請にも「あの両備がこれほど大規模なバス路線の廃止をするからには何か理由があるはず」と両備の訴えに耳を傾け、理由を知って支持したのではないでしょうか。

 

一方のJR九州も民営化後早い時期から水戸岡鋭治氏デザインの鉄道車両を次々と投入し、早くから観光列車に力を入れたり、九州新幹線開業時には新幹線からの乗り継ぎ客をターゲットにした観光特急を多数設定するなど、鉄道の魅力を高め、興味を持ってもらうための積極的な投資を次々と行っていきました。

しかし近年は九州新幹線の全線開通やクルーズトレインの「ななつ星」、関連事業の好調などで景気のいいニュースが続き、極め付けは2016年のJR三島会社初の東証1部上場。これらの明るいニュースが度々報じられると「JR九州は儲かっている」と思ってしまうのではないでしょうか。

そんな景気のいい話が続いた後の突然の大規模減便のニュース。対象となった路線の自治体や利用者にしてみれば「あれだけ景気のいい話をしておいて減便とは何だ!」と、JR九州に不信感を抱いて反感を買うのも仕方のない事ではないでしょうか。

 

2.上場企業と非上場企業の差

2016年に東証一部に上場し、完全民営化を果たしたJR九州ですが、上場企業ともなれば不特定多数の株主を抱えることになり、また株価の維持や上昇の為、配当を出すことが求められます。株主サイドも会社がいい加減な経営をして倒産したら自分の資産が紙くずになるわけですから、自然と赤字事業に対する目は厳しくなります。JRに取って株式公開や完全民営化は国の監視下から解放され、自由な経営が可能になるメリットがありますが、一方で株主の監視を受け、利益の一部を配当として還元する義務を負う事になります。

JR九州も上場に伴い鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全株式を放出し、完全民営化を果たしました。2018年3月期のJR九州の決算は売上高約4133.7億円に対し、営業利益639.6億円、当期純利益504.1億円。数字だけを見ればかなり優秀ではありますが、これは上場前に経営安定化基金を取り崩し、鉄道資産の減損処理を行って減価償却費負担が減ったため。今でこそ鉄道事業は黒字ですが、減損処理前はギリギリ赤字であり、今の鉄道事業の利益は経営安定化基金取り崩しで過去の負債を一掃して出した利益とも言えます。

今後は税制優遇措置の終了や鉄道事業の減価償却費の増加で減益が見込まれ、地方ローカル線の赤字と長期低落傾向で内部補助が困難になる可能性も出て来ます。そうなれば株主、特に地方の実情を知らない外国人株主から減益の元凶である赤字ローカル線対策を求められるのは必至。遅かれ早かれこうなる可能性はあったと思いますが、一方で決算上は十分な利益を上げているのもまた事実であり、本来であればネットワークの維持の為に拠出された経営安定化基金を償却して出した利益ですから、沿線自治体は釈然としないのではと思います。

 

一方の両備グループは現在も非上場であり、創業一族の松田家が現在でも経営の中枢にいます(小嶋氏は松田家出身ではありませんが、いわゆる娘婿なので松田家の一員です)。同族企業というとどうしても会社の私物化やワンマン経営というイメージを持ってしまいますが、外部の意見に左右されず、長期的な視野に立った経営ができるというメリットがあります。要はオーナー一族がしっかりした考えや長期的なビジョンを持った優秀な人物であれば問題はなく、むしろ会社はいい方向に回りますので、同族企業は良くも悪くもオーナー一族の質に左右されます。

両備グループの場合は代表も小嶋氏自身が公共交通に対する確固たる信念を持っており、他の役員も特に反対もせず協力した事を考えると考えは小嶋氏と同じでしょう。組合のストもある意味経営陣の理念に賛同した行動とも言えます。もし両備グループが上場企業だったら株主の反発を恐れてこれまでの行動はとれなかったでしょうし、それ以前に赤字の会社の引き受けは不可能だったと思います。非上場の同族企業であったがゆえに、信念に基づいて思い切った策が打てたのではないかと思います。

3.大義名分と事前準備の差

両備グループがバス路線の大規模廃止を発表した時、その理由を「めぐりん益野線参入により2億8000万円の減収が見込まれ、内部補助ができなくなる」と、路線バス事業の窮状を訴えるものであり、あえて問題提起として赤字路線の廃止を発表した、としています。異例な発表ではありましたが、「地方の公共交通の持続性」「数少ない黒字路線への参入というクリームスキミング」「ネットワークの維持が困難になる地方交通の将来」という、地方交通の問題点を問うという大義名分を前面に押し出しており、決して自分たちが得をするための廃止ではないという点が世論の共感を得たのではないかと思います。

これまでの両備グループの公共交通に対する取り組みもこの主張に説得力を持たせており、その後の廃止届の撤回や組合のスト通告→集改札ストに変更などの手並みも鮮やかでした。恐らく、めぐりん益野線参入が表面化したあたりから、両備グループ内である程度世論に訴えるための戦術を練っていたのだと思います。一見すると衝撃的な発表で世間の注目を集め、ある程度の成果を得たらすぐに引っ込めて迷惑をかけたことを詫びる。場当たり的な対応では法定協議会設置までは持ち込めなかったと思いますし、世論の共感も得られなかったと思います。

 

一方のJR九州。発表が突然だったことや、既に決定事項として発表した事はマズかったと思います。減便をするにしても発表前に影響のある自治体に説明をする、利用率調査をしてその結果を公表し、利用者が少なく減便するしかないという事を利用者に訴える、路線ごとの利用者数や収支を公表して窮状を訴えるなど、世論の理解を得る努力や根回し、判断に必要なデータを公表するなどの事前準備をしてから減便に踏み切るべきでした。景気のいいニュースや好調な決算発表が発表された後でいきなり「ローカル線の維持が苦しいから減便します、ご理解ください」と言われても納得する人なんていないでしょう。

今更「他の事業で黒字を出してるんだから内部補助をしろ」とは言えないにしても、そもそもJR九州は九州地方の国鉄路線を継承し、九州の公共交通を維持、発展するために作られた会社ですから、その責務を考えると今回の減便発表は少々乱暴であったと思います。減便が路線維持の為にやむを得ないものであったとしても、事前の説明や世論への喚起は必要でした。

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JR九州も反発の声に流石にまずいと感じたのか、ダイヤ改正日に「高速道路の延伸などによる他の交通機関との競争激化や人口減少、少子高齢化で今後も厳しい状況が予想されるので、今回のダイヤ改正で列車本数や運転区間の見直しを行う事にしました」との意見広告を出しましたが、遅きに失した感があります。

この意見広告を減便発表前に出して窮状を訴え、沿線自治体に協力を呼びかけた方が理解を得られたかも知れませんし、話し合いの場を設けて双方の妥協点を見いだせたかも知れません。窮状を知って危機感を持った自治体が路線維持の為、支援に乗り出した可能性もあります(まあ、JR北海道みたいに窮状を訴えても沿線自治体が全然理解してくれず、口は出してもカネは出さないというケースもあるわけですが)残念ながら減便ありきのJR九州の発表は、沿線自治体や利用者との間に溝を作り、公共交通の在り方を議論する機会や路線活性化に向けた自治体の支援を得るチャンスを失ってしまったのではないかと思います。

 

まとめ

両備グループの問題もJR九州の問題も根っこにあるのは今のままでは公共交通の維持が困難であるという危機感であり、一事業者だけに交通ネットワークの維持・責任を丸投げしていればいい時代ではなく、行政や利用者も問題意識を持つ必要があるという点では同じです。しかし、問題提起の仕方やアプローチの仕方は対象的であり、用意周到に行動を起こした両備と事前の準備や根回しを行わなかったJR九州の差がその後の世論形成に決定的な差を生んでしまったなと思います。

もちろん、両備のやり方に反発を覚えた人も少なからずいたと思いますし、JR九州に理解を示す人も多いと思いますので、私の考えが全てだというつもりは毛頭ありません。しかし、地方交通の問題は両備やJR九州だけでなく、日本全体の問題でもありますので、そろそろ国民的な議論が必要な時期なのではないかと思います。

一事業者の内部補助で赤字路線を維持するのは厳しくなってきてますし、本来であれば黒字路線の利益は黒字路線の利用者や事業者に還元されるべき利益ですので、内部補助は根本的な問題の解決にはなりません。

赤字ローカル線を維持するにしても、黒字化とまでは行かなくても行政の支援が可能な範囲内に収める必要がありますし、行き過ぎた内部補助や公的支援は事業者や利用者のモラルハザードや危機感の希薄化を引き起こす恐れがありますので、ある程度の危機感を持ちつつ、長期的に路線を維持する仕組みを作る必要がある時期に来ているのではないでしょうか。

 

両社の対応の違いは、自社を「交通事業者」としてとらえるか、「営利企業」としてとらえるかの違いだと思います。「交通事業者」としてとらえた両備は公共交通ネットワークの維持という社会的責務の為にああいう行動を起こしたと考えれば説明が付きますし、JR九州の取った行動も利益の最大化や株主への利益の還元という「営利企業」として損失を減らすため当然の事をした、と考えれば合点が行きます。

しかし、JR九州が儲け一辺倒に走った、とは私は思いません。本当に利益だけを考えているのであれば赤字ローカル線などとっくに廃止していると思いますし、大規模減便は路線維持のための苦肉の策であったと思います。JR九州が間違ったのは減便と言う結論を先に持ってきたことであり、減便の前に利用者や自治体に理解を得る努力を怠ったこと。鉄道の魅力を高め、利用してもらうために様々な仕掛けを行い、JRグループの中でも異質な存在として注目を集めてきたJR九州だけに、その努力を無にしかねない今回の事は残念でなりません。「交通事業者」としての矜持があるのなら、今からでも沿線の声に耳を傾け、お互いが納得のいく解決策を見出して欲しいですね。