〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

JAL再建問題の「負」の部分

東海道交通戦争、今回は2回に渡ってJALの再建を取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章②~沈んだ太陽は再び昇るのか~カリスマ経営者最後の挑戦


東海道交通戦争・最終章③~陽はまた昇る~意識改革と部門別採算制度が起こした奇跡の復活劇

 

正直、JALの再建話そのものは東京~大阪間の競争には直接関係ない話ですが、ここの話をやらないと、その後の羽田国際化やJALとANAの確執などの話に支障が出ますし、話の流れ抜きにJALの破たんと再建はやるつもりでした。本題は東京~大阪間の新幹線と航空の争いですが、裏テーマが戦後日本の交通史と言う事を考えると、避けては通れない話題ですからね。でもこれでもかなり端折ったんですよ。今回からは動画内では書けなかったJAL再建問題に関して取り上げていきたいと思います。

 

今回はJAL再建問題の「負」の部分を取り上げます。話の構成上、負の部分については人員削減や整理解雇、資本金の減資に不採算路線の撤退と、一通り触れてはいますが、個々の部分に関してはそこまで深く触れませんでした。ここでは負の部分についてもう少し深く触れてみたいと思います。

 

1.人員削減と整理解雇

JALの人員削減は約1万6000人。このうちの何割かはJALホテルズや機内食製造会社、旅行業などの子会社売却による切り離しですが、パイロットや客室乗務員、整備士など航空機の運航に直接関わる人員も削減の対象となりました。大半は希望退職によるものですが、事実上は退職勧奨。それでも退職に応じなかった一部の従業員に対しては整理解雇の対象となってしまいます。

 

さて、この「整理解雇」ですが、基本的に日本は解雇規制が強く、大抵の場合は従業員に重大な落ち度(犯罪を犯したり横領したりなど)があり「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる」場合を除き、解雇されることはありません。しかし、経営不振による使用者側の都合による解雇ができないわけではなく、1)人員削減の必要性がある(2)使用者が解雇回避努力を尽くした(3)人選が合理的(4)手続きが妥当、のいわゆる「整理解雇の4条件」を満たせば解雇は可能です。

JALの場合、最終的には最後まで希望退職に応じなかった84人を整理解雇としましたが、これは日本ではかなり異例の事。ある意味、法的整理になった企業は条件さえ満たせば整理解雇もOKという前例を作ったことになりますが、実際、整理解雇が認められる基準自体も以前よりは多少緩くなっているようです。

人員削減が進められた時期はリーマンショック後、航空業界自体が冷え込んで採用が抑制された時期でもありますので、特に専門性が強いパイロットに関しては高齢のパイロットや航空機関士から副操縦士に転身した人が削減の対象となったため、再就職に関してはかなり厳しく、操縦かんを奪われた人も多いと聞いています。特に航空機関士からの転身組は過去のJALの採用計画に振り回された経緯もありますので、会社に人生を狂わされたと言っても過言ではないでしょう。

 

2.資本金の全額減資

 会社更生法の申請後、JALの資本金は全額減資となり、それまでの株主は株主責任として株を失いました。株式会社の原則から言えば出資者である株主には「株式の引受価格を限度とした出資義務」があり、会社が潰れたりすれば出資金を失うのは当然の事だと言えます。

とは言え、JAL位の大企業になるとその影響は大きく、大株主や個人株主にも大きな被害を与えました。例えばJASの筆頭株主で統合後のJALの大株主であった東急電鉄。経営が危ないと言われた2010年下半期でJAL株を全て売却し、90億円の特別損失を計上しました。この特損で田園都市線の車両更新計画にストップがかかり、置換え予定の車両を延命するなど影響がありましたが、東急の場合は早めに見切りをつけた分、まだ傷口は小さく済んだ方です。

他にも三菱商事と双日がJAL株で150億の特別損失を計上した他、JALと取引があり、付き合いでJAL 株を保有していた旅行会社などの取引先もJAL破綻で損失を出しています。

そして、株主優待目当てでJAL 株を買った多数の個人投資家も損失を蒙ることになりました。株は自己責任とは言え、個人株主が多かったJALの破綻と減資は被害を受けた人が多かったのではないでしょうか。

 

3.不採算路線の撤退

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本編でも不採算路線の撤退には触れていましたが、これについては破綻前にも撤退した路線や空港は少なからず存在しました。計画自体は2009年には既に作成されており、動画内で触れた拠点以外にも国際線はメキシコシティ、青島、杭州、アモイから撤退。国内線も静岡、松本、神戸、粟国の4か所から撤退しています。

特に松本や粟国、動画内で触れた小牧や広島西はJAL 撤退=定期路線消滅=廃港の危機でしたが、松本と小牧はFDAが路線を引き継いで存続、広島西はそのまま廃港、粟国は第一航空が路線を引き継いだものの運航は安定せず、補助金のゴタゴタもあって今年3月に撤退と明暗が分かれています。

この他にも国内線は中部路線を中心に大量に撤退、国際線も関空、中部発着路線は半減と、特に名古屋地域で大幅に縮小されています。元々この地域はANAが強く、後発のJALは苦戦していましたが、破綻で路線網を維持する余裕もなくなってしまいました。中部空港は元々羽田国際化で苦戦していますが、それに拍車を掛けたのがJALの大幅縮小であり、JAL破綻で運営計画か狂った空港も、ある意味破綻の犠牲者とも言えます。

ただし、そんな中でも離島路線はほぼ破綻前のネットワークを維持していますし、経営が回復した後は撤退路線の復活や季節運行も行なっています。元々公共性を強く意識していたJAL ですから、この辺はしっかりしてるな、と思いますね。特に近年では天草エアラインとの提携や、ストレッチャーの搭載が可能なATR42の投入、沖縄の離島の貨物需要を考慮して貨客混載型のダッシュ8-400を入れるなど、離島路線に配慮した機材を相次いで投入しています。公共性に対する意識が強いJALならではの機材選択とも言えます。

 

以上、JAL 破綻の負の部分について触れてきましたが、放漫経営で会社を潰したと言う事実や、破綻で大きな影響を受けた人が少なからずいた事は忘れてはいけないと思います。勿論、その事はJAL 自身が一番よく分かっていると思いますし、忘れる事はないと思います。その上で破綻の教訓を生かし、日本を代表する航空会社としてANAと切磋琢磨して欲しいですね。