〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

JALタスクフォースの功罪

引き続き、東海道交通戦争第7章後編で紹介したJAL破たん関連から、今回はJALタスクフォースを取り上げます。

 


後編:落日のフラッグキャリア【東海道交通戦争 第七章】

 

動画内では前原誠司国土交通大臣の私的諮問機関として、JAL再生の実働部隊的役割が期待されたものの、あいまいな立ち位置と銀行に債権放棄を迫ったことで不興を買い、解散に追い込まれた何がしたかったのかよくわからない組織、という描き方をしました。

実際、JALタスクフォースの位置づけは曖昧でしたし、政治主導でJAL問題を解決しようとしたけど、独断専行過ぎて官僚や銀行団から総スカンを喰らったのは事実です。解散後、タスクフォースの資産査定にかかった費用約10億円がJALに請求されたのもタスクフォースの評価を下げた一因でした(実際のところ、その10億円の請求は冨山和彦氏や高木新二郎氏らタスクフォースのメンバー個人の報酬ではなく、人手を出した法律事務所や会計事務所などに対する報酬なのですが、メンバーの中にはその会計事務所の取締役もいた事と、大臣の私的諮問機関と言う位置づけを考えると全く問題なしとも言い切れません)タスクフォースのJAL問題を題材にした半沢直樹シリーズの「銀翼のイカロス」でも、タスクフォースが完全に悪者になっているのも、未だにタスクフォースに対する評判がよくない原因の一つでしょう。

 

しかし、それでも私はJALタスクフォースの存在は無意味ではなかったと思います。仮にタスクフォースがなかったらJALの再建はもっと不透明なものになっていたかもしれず、抜本的な対策も取られず、最悪二次破綻して消滅していたかもしれません。JAL再建の立役者となった稲盛和夫名誉会長や、財務面での実働部隊であった企業再生機構のスタッフと違い、JALタスクフォースのメンバーには日の目は当たりませんでしたが、彼らも立派な「JAL再生の功労者」であったと思います。

タスクフォースの功績1・JALの経営が想像以上にヤバい事が分かった

JALタスクフォースのメンバーが直接JALに乗り込み、資産査定を行ったことで、営業キャッシュフローが赤字になって資金繰りが破たん寸前だった事、航空機の資産価値が帳簿上よりもかなり低く、評価損の計上を迫られそうな事、JALを救うには公的資金の投入が避けられず、3000億以上が必要になることが分かりました。つなぎ融資の調達ができない場合、12月には手元資金が枯渇して支払い不能となり、飛行機が止まることも判明します。

破たん前のJALは路線別の収支も大雑把にしか分からず、はっきりした数字が出てくるのに数か月かかる、日々の現金残高も良く分からないとかなりいい加減でした。もしいい加減なJAL側の財務情報だけを鵜呑みにしていたら、資金繰りが危うい事に気づかず、本当に必要な再建資金を手当て出来なかったかもしれません。それどころかJAL自身ですら会社の本当の財務状態を知らない状態ではある日突然金庫にお金がない事に気づき、慌てた頃には燃料供給をストップされ、飛行機を差し押さえられてなし崩し的に運航停止、破産という最悪の事態を迎えていたかもしれません。そう考えるとJALタスクフォースが資産査定を行い、正しい財務情報が分かっただけでもタスクフォース設置の意義はあったと思います。

 

タスクフォースの功績2・JAL社内の抵抗勢力の影響を排除できた

タスクフォースが資産査定を行い、再建案を練っている頃、JALの役員の一人がタスクフォースの言動をICレコーダーにひそかに録音し、関係官庁に「密告」していました。JALと懇意にしている強力な運輸族議員がいた自民党政権であれば、この「密告」は運輸族議員や官僚を動かし、タスクフォースのメンバーのクビを飛ばすこともできたかも知れません。

実際、日航ジャンボ機墜落事故後、JAL改革の目玉として乗り込んできた伊藤淳二会長もJAL内外で反発を招き、社内スキャンダルがマスコミにリークされるなど、政府を巻き込んだ伊藤会長の追放に発展しました(もっとも、伊藤氏も労使協調を謳いつつ「密告」を暗に奨励したり、総理から贈られた額縁を自分の権威に利用したりとどっちもどっちな事をしていますが)

しかし、良くも悪くも強力だった自民党運輸族議員と違い、民主党政権は今まで官僚や財界に相手にされなかった分、しがらみもありませんでした。しがらみや族議員の圧力がない以上、JAL役員の「密告」が政権や関係官庁を動かす事は無く、ある意味抵抗勢力は蚊帳の外に置かれたまま事は進む事になります。JALの既得権とは無関係だった民主党政権だったからこそ、タスクフォースは自由に動く事ができ、法的整理と言う思い切った手が打てたのだと思います。

 

 

 とは言え、結果だけ見ればJALタスクフォースは資産査定を行っただけで具体的な再建策に取り組む前に解散してしまったので「何の成果も挙げずに1か月という時間と10億円を浪費し、JALに払わせた」と見られてしまうのも仕方ありません。しかし、強大な権力を持つ大統領府直属の組織で十分な権限を与えられたGMタスクフォースと、大臣の私的諮問機関に過ぎなかったJALタスクフォースを同列に語るのは酷だと思います。

 もしJALの再建案が国交省やJALの経営陣の言うがままに進められていれば、JALの責任感の希薄な経営や上層部のモラルハザード、いい加減な財務やコスト意識のなさに大ナタが振るわれないままJALに公的資金がつぎ込まれ、いずれ二次破綻してもっと深刻な事態になっていたと思います。例え政治主導のパフォーマンスだったとしても、JALタスクフォースが本当のJALの資産状態をあぶりだし、JALの抵抗勢力を再建案から遮断したことがその後のJALの法的整理と短期間での再生につながったのではないでしょうか。