〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

アリタリアを潰したのは誰か

迷航空会社列伝、今回は3回シリーズでアリタリア航空を取り上げました。

 


迷航空会社列伝 「イタリアのフラッグキャリア」アリタリア航空 前編:マルペンサの乱


迷航空会社列伝 「イタリアのフラッグキャリア」アリタリア航空 中編・資金繰りとストと破産


【後編・石油王でもダメでした】迷航空会社列伝「イタリアのフラッグキャリア」アリタリア航空

 

 今回の動画でも分かる通り、アリタリアーイタリア航空の行く末はまだ決まっておらず、現段階では引受先のスポンサーとして7グループが名乗りを上げましたが、どのグループもアリタリア丸ごとの引き受けには難色を示しており、来年の4月までに交渉でその差を埋めるとしていますが、状況は不透明です。

そんな中、11月14日には就航70周年を祝って歴代CAの制服を披露するファッションショーが開かれましたが、正直、71周年を迎えられないかもしれない瀬戸際なのに、呑気にイベントを開いてる場合じゃないのではと思うのは私だけでしょうか。

 

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再生か、清算か、瀬戸際にいるアリタリアですが、結局のところ、イタリアのフラッグキャリアを潰し、追い詰めたのは一体誰なんでしょうか。

 

①歴代のアリタリア経営陣が悪いのか

会社の経営陣は高い地位と報酬を得る代わりに会社の経営に責任を持ち、会社に損害を与えれば責任を取らされて更迭されますから、アリタリアの場合も経営陣に破綻の責任があるのは当然のことです。

しかし、アリタリアの過去の経営陣が全て悪いのか、と言われるとそうとも言い切れません。アリタリアはつい10年前までイタリア政府の資本が入っていましたから、経営にもイタリア政府の意向が反映されていたはず。実際、国営時代には組合のストを抑えるために合理化策を出した経営陣を更迭する、という事が何度もあり、自分たちの意思で長期的な経営ビジョンを打ち出せなかったのではないでしょうか。

さらに言えばアリタリアの根本的な問題は余剰人員などの高コスト体質であり、これをなんとかしない限り再建はおぼつかないし、歴代の経営陣も合理化を最優先にせざるをえなかったと思います。そう考えると経営陣に全ての責任を押し付けるのは酷なのではないでしょうか。

 

②アリタリアの労働組合が悪いのか

動画内では事あるごとに合理化に反対し、倒産の原因のように書いてきた労働組合。実際のところ、イタリア国内ではアリタリアの評判は良くないようで、2013年には預け入れ荷物から現金や貴金属を何年も盗んでいたとしてアリタリアの従業員数十人が逮捕されるなど、従業員のモラルは良くありません。今回の破綻も最終的には従業員投票で3分の2が合理化案反対という結果を受けてのもので、少なくともアリタリアに関しては従業員の意識を根本から変えない限り、いくらお金をつぎ込んでも再建は不可能だと思います。

では労働組合がアリタリア破綻の全責任を負うべきなのでしょうか。確かに責任の一端を負うべきではあると思いますが、労働組合はあくまでも従業員側の利益の代弁者であり、従業員の雇用と給与を守るために合理化策に反対し、ストを打つのはある意味当然の事です。ただ、スト戦術に固執するあまり、やりすぎて会社が潰れては元も子もないのでどこかで経営側と折り合いをつけて従業員の利益をできるだけ確保できるよう交渉をするべきでした。現実認識の無さとモラルの低さは責められるべきでしょうが、従業員に全ての責任をなすりつけるのも暴論ではないかと思います。

 

③イタリア政府が悪いのか

アリタリアがこれだけ赤字をこいても危機意識を持たず、不毛なストを繰り返したのも会社が傾くたびにイタリア政府が救済してきたから。結果、従業員は何かあっても最後には国が助けてくれると安心し、危機感を持つことはありませんでした。アリタリアが変われなかったのは、イタリア政府が甘やかし続けたからとも言えます。

個人的には経営陣や組合よりも政府の責任の方が大きいのかなと思います。アリタリアを救う為につぎ込んだ資金も行き着くところは国民の税金。いくらイタリアの空を守るためと言っても、湯水のように税金をつぎ込んでいいというわけでもないですし、相次ぐ資金投入も結局はアリタリアの延命でしかありませんでした。EUが航空自由化に舵を切った時点でアリタリアは抜本的に改革して高コスト体質から決別させるべきだったのですが、それができずに問題を先送りした結果が二度の破綻を招いたのだと思います。

 

しかし、強力な組合のストを押し切れるほど政府に強力なリーダーシップが取れたかと言われると、ちょっと難しかったかも知れません。というのもイタリアは1993年の小選挙区制に移行後、選挙ごとに政権交代が起こる上に首相も頻繁に交代するので、長期的な政策が取りづらいという問題を抱えています。2008年の倒産の際も、一度はエールフランス−KLMへの身売りが決まったのに、選挙で勝ったベルルスコーニがひっくり返したことからもわかるように、どうしてもその時々の政権に左右されてしまいます。そう考えると、イタリア政府がアリタリアの再建を強力に主導する、というのはちょっと考えづらいです。

 

 

以上のことから、経営陣、労働組合、イタリア政府の三者に責任はあるものの、全ての責任があるとも言えない、と言う結論に達しました。個人的には責任の度合いとしては政府>経営陣=組合かなと思いますが、アリタリアはイタリアの悪い部分(先送り体質、頻繁なトップ交代、極端な変化への抵抗)や国民性(楽天的、マイペース、ルーズ、直情的)が悪い方向に作用した感もありますので、アリタリアを追い込んだ本当の犯人はイタリアの気質そのものだったりして・・・?