〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

結局、バニラエアは成功だったのか。失敗だったのか。

迷航空会社列伝、今回は前回からの続き物でバニラエアを取り上げました。


名航空会社列伝「リゾートに咲いた白く儚い花」究極のリリーフ・バニラエア

 

前回の初代エアアジア・ジャパンからの続き物ですので、まだの方はこちらをどうぞ。


迷航空会社列伝「水と油の同床異夢」1年3か月で消えたエアアジア・ジャパン(初代)

 

最終的にはピーチへの事業譲渡と言う形で統合され、姿を消すことになったバニラエアですが、実際のところ、バニラエアは成功だったのでしょうか、それとも失敗だったのでしょうか。

 

 

1.業績

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直近のバニラエアの決算は2018年3月期。前年度は営業損失約6000万円、当期純損失約7億1100万円でしたが、今期は営業利益8億4600万円、純利益12億3200万円と再び黒字決算になりました。これだけを見ると単独でも持ち直せそうに見えますが、この利益額は赤字決算に伴う法人税減免が反映されている数字です。普通に法人税を納めていれば利益額は5~6億円程度と、売上高に比べると利益率はそこまでは良くなさそうです。

さらに言えば、最悪期よりはマシになったとは言え、累積損失はまだ107憶9100億円あるので、健全経営とはまだ言えない状態。この利益額だと累積損失の一掃にはまだ10年ほどかかりそうですので、業績面からバニラエアを「成功」と言うのはちょっと早いかなと思います。もっとも、バニラエアの累積損失のうち3分の1はエアアジア・ジャパン時代のものですので、一概にバニラエアのせいとも言い切れないのが判断を下すのに困るところですが・・・

 

www.traicy.com

 

2.イールドとユニットコスト

航空会社の収益力を示す数値として「イールド」と「ユニットコスト」があります。「イールド」は旅客1人に対する1キロメートルあたりの収益を示しており、この数字が大きければ大きいほど、高い価格で航空券を販売できていることになり、売上高の増加につながります。一方の「ユニットコスト」は、1座席を1キロメートル運ぶためにかかるコストの額を示しており、この数値が低ければ低いほど、利益を出しやすいと言えます。つまり、イールドが高ければ高いほど、ユニットコストが低ければ低いほど、その航空会社は収益性が高いと言えます。では、バニラのイールドとユニットコストはどうなのでしょうか。他のLCCと合わせて見て見ましょう。なお、数値については下記の記事より抜粋しています。

 

gendai.ismedia.jp

 

            イールド  ユニットコスト

バニラエア        6.6円     5.7円

ピーチ          9.1円     6.8円

ジェットスタージャパン  8.3円     6.9円

春秋航空日本       7.6円     10.5円 

 

こうしてみるとバニラエアはイールドはLCC4社中最低ですが、逆にユニットコストは4社の中で最も低い数値です。「動画内でバニラエアのコストが高いと言っていたのに!」と思われるかもしれませんが、実はこのユニットコスト、輸送距離が長くなればなるほど緩やかに下がっていく傾向にあり、他のLCCに比べて長距離を飛ぶ国際線の比率が高く、平均輸送距ピーチやジェットスタージャパンよりも500km以上長いバニラエアが有利なんです。もしバニラエアの平均輸送距離がピーチやジェットスタージャパンと同等なら、ユニットコストはこの2社と同等か、それより高かったのではないでしょうか。

一方のイールドですが、季節変動が大きく、供給量が決まっていて在庫を持ち越すことが不可能な航空業界の場合、需要動向を見極めて価格設定と販売座席の調整を行い、最大限の販売金額で座席を売り切る能力が求められます。イールドの数値が高ければ高いほどこの販売コントロール能力「イールドマネジメント」が優れているとも言え、この点では最も高い数値を出しているピーチの方がイールドマネジメントに優れていると言え、このイールドの高さがピーチの高収益体質を支えています。一方のバニラエアはイANAからの出向者で固められており、LCC流のシビアなイールドマネジメントを行うのは限界があったのかも知れません。そういう面ではバニラエアは「成功」とは言い難いですが、ユニットコストの低さは平均輸送距離の長さを差し引いても先行2社とそん色ないものですから、「失敗」とも言えないと思います。

 

3.路線展開

2018年8月現在、バニラエアの就航路線は以下の通りです。

成田―札幌、函館、奄美大島、那覇、石垣、台北、高雄、香港、セブ

関西ー奄美大島、台北

福岡ー台北

那覇ー石垣、台北

 

国内線7路線、国際線7路線の計14路線とピーチやジェットスタージャパンに比べると少ないですが、その分会社の柱となる路線は便数が多いのが特徴です。例えば国内線の主力の成田―札幌線は1日9往復、成田ー台北は1日4往復と、主力路線に便数を集中させてシェアを取る作戦です。また、「リゾート」を謳い文句にしているだけあって、奄美大島や石垣、セブといったリゾート地への路線を積極的に開拓するほか、函館や高雄と言った観光需要が大きそうな地域にも就航しているのも特徴です。

一方の運休路線は、国内線では成田ー関西線と関西-函館線、国際線では成田-ソウル線と成田ー台北経由ホーチミン線。この他、成田―セブ線も冬スケジュールから運休となります。ピーチも同じくらい運休路線があるのですが、ピーチとバニラの路線数の差を考えるとバニラエアの運休路線は多い方ですし、ジェットスターの運休路線が3路線だけと言う事を考えると、路線開拓の市場調査や就航後のてこ入れに関しては他社より甘いのかなという印象です。この辺もLCC的なシビアさがバニラエアは薄いなと感じる部分ですが、ANAの出向者が多い事を考えると、抜本的なてこ入れは難しそうです。

 

で、結局バニラエアは成功?失敗?

以上の事から考えると、バニラエアを「成功」と言うには今一つな要素が多いですし、「失敗」と断じるのは奄美路線の成功や低いユニットコスト、黒字化した事を考えると無理がありますし酷だと思います。しかし、前身のエアアジア・ジャパンの失敗からの立て直しと言う要素を加味すれば「まあまあ成功だった」と思いますし、奄美大島の観光振興に大きく貢献したという意味では、奄美地方の人々にとってはバニラエアは「大成功」と言えるでしょう。ピーチがかなりの成功を納めているのに比べるとバニラエアの規模と業績はどうしても見劣りしてしまいますが、就航から4年でこの数字ならよくやった方ではないでしょうか。

その一方で、バニラエアがこの先大きく飛躍できたのか、と言われると、現状のままでは厳しいのではないかと思います。関空で絶対的な地位を築き、ジェットスタージャパンを返り討ちにしているピーチと違い、成田でのバニラエアはそのジェットスタージャパンの後塵を拝していることや、リゾートに特化したブランドイメージがピーチやジェットスタージャパンのような幅広い路線展開の妨げになっている事。そしてANAからの出向者で固められ、良くも悪くもANAに依存しているバニラエアがLCC的なエッジの利いたブランド展開や大胆な発想がやりにくい事など、他社に比べると成長の伸びしろは少ないように思います。そう考えると今回のピーチとの統合は、起こるべくして起こった事なのかも知れません。

 

8月2日より2018年度冬ダイヤの販売がスタートしましたが、今回はピーチへの路線移管はありませんでした。恐らく次の2019年春ダイヤからピーチへの路線移管が本格化するのではないかと思います。まだ統合後の新生ピーチの姿は見えて来ませんが、バニラエアの持つ国際線網やユニットコストの安さを新生ピーチには是非生かして欲しいですね。バニラエアが本当の意味で「成功」と言えるようになるのは、新生ピーチがバニラの資産を生かしてさらに飛躍した時なのではないでしょうか。

 

 

 

 

MRJミュージアムに行ってきた。

7/27(金)から今日(7/29)まで愛知と福井に行ってきました。当初は動画の素材集めも兼ねて関東方面に行くつもりだったんですが、直前になって台風12号が関東地方直撃と聞いて、危険を感じて泣く泣く断念。ちょうど前から行きたいと思っていたMRJミュージアムに28日の午前の空きがあったので、予定変更してこっちに変更しました。

 

で、7月28日の午前10時ころ、名古屋空港近くにあるあいち航空ミュージアムに到着。「え?MRJミュージアムじゃなくって?」と思ったそこのあなた、MRJミュージアムは工場関係者以外立ち入り禁止の三菱重工の敷地内にあるので、直接行くことができないのです。というかMRJの製造工場に入るわけですから当然と言えば当然なんですが。

そこで、MRJミュージアムの受付はあいち航空ミュージアム内にあり、そこで受付を済ませた後、専用バスで工場へと向かうわけです。ちなみに、MRJミュージアムは工場敷地内も含め原則撮影禁止。電子機器の持ち込みも一切不可で、1階のロッカーに全て預けなければいけません。万が一持ち込みが発覚したらその時点でツアー中止になる場合がある程撮影や電子機器持ち込みにはシビアですので、現地のスタッフの方や他のツアー客の迷惑にならないよう、うっかりでも絶対に持ち込まないでください。

当然、館内の写真は一切なし。一階のエントランスだけは写真撮影OKのようですが、商業利用はNGのようなので、ここでの掲載はやめておきます。という訳で下のあいち航空ミュージアムの写真が唯一のもの。MRJミュージアムのバスが写ってますが、まあこのくらいは大丈夫かと思います。

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さて、MRJミュージアムですが、結論から言うとかなり見ごたえがありました。バスで移動後、一階のエントランスで荷物を預け、まずは上の階に移動して、シアターで15分ほどMRJの初飛行や開発の様子を映像で見ました。映像が終わるとスクリーン左手の扉が開き、MRJの原寸大モックアップが登場するという演出。これはなかなか上手くできてるなと思いました。MRJに対する期待感が高まります。

展示施設はMRJの原寸大モックアップやエンジンや主翼の部品、フライトマッピングや実際に風洞試験で使われた模型などが展示してあります。生産現場を360度映像で見ることができる場所ではタブレットを使ってみるのですが・・・見事に騙されました。何に騙されたかは実際に行って見て下さい(笑)

 

そして、ひとしきり説明を受けた後は下の階に降りていよいよ製造工場へ。工場内は組み立てエリアと偽装エリアに分かれていて、組立エリアには塗装済の試験機が一機と組立前の胴体が2機分置かれていました。一方の艤装エリアは配線作業中の機体が1機。全体的にガランとした感じですが、実際に生産体制に入ると何機ものMRJが並ぶ壮観な光景になるんじゃないでしょうか。

 

都合1時間半近くに及んだ見学ツアーは以上で終了。1グループにつき15人で回るので、あまり駆け足にならずにしっかり説明を聞ける感じ。入る前にイヤホンが渡されて説明もイヤホン越しに聞けるので、説明が聞こえづらいという事もありません。モックアップ内の座席や主翼の部品などに実際に触れたり座ったりすることができますので、より旅客機の事を詳しく学べるなと思います。ツアーは有料ですが、お金を払う分、しっかり考えてコースが組まれているなという印象です。

最近、MRJに取っては逆風と言えるニュースが続いていますし、今後の計画の継続性や将来の見通しも明るいニュースは少ないですが、それでも国産ジェット旅客機は実現して欲しいと思います。そのMRJを深く知り、ファンを増やすという意味でもこのMRJミュージアムは有益だと思いますし、連日満員で予約が取り辛い人気施設になっているのも、MRJに対する関心や機体の高さの表れではないでしょうか。特に土日は空きが出にくく、また予約しても変更がしにくかったり身分証明書が必要だったりと見学のハードルは高いですが、MRJミュージアムに予定を合わせてでも見る価値はあると思います。案外、間近になるとグループのキャンセルなどで空きが出る場合もありますので、思い立ったらあきらめずに予約状況を見て見る事をお勧めします。

 

まあ、私の場合はぼっちだったから間近でも予定が立てられたとも(以下自粛)

 

【2023年6月23日追記】

MRJミュージアムの閉館が正式に決まってしまいました。コロナ渦による休館以来、一度も再開されることなく6月末で閉館するそうです。スペースジェットの開発中止でこの施設の存続自体難しいと思っていたのですが、いざ正式に閉館が決まると寂しいものです。

それとともに、行けるときに行っておいて本当に良かったとも思います。シアトルやトゥールーズのような航空機産業の一大拠点になる夢はMRJミュージアムの閉館とともに幻となってしまいましたが、せめて展示物の一部だけでもどこか別の博物館に移して展示してくれればと思います。

www.aviationwire.jp

 

あと、あの時見た作りかけの試験機は恐らく廃棄されただろうな・・・

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

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日本貨物航空、整備記録改ざんと事故隠蔽で業務改善命令喰らう。

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日本郵船グループの貨物航空会社「日本貨物航空(NCA)」が航空機の整備記録を改ざんしていたとして、国土交通省から「業務改善命令」を出されてしまいました。この他にも報告義務がある事故報告を怠ったなど、安全管理が極めてずさんだと判断され、航空事業者としては初めての「連続式耐空証明」の取り消しまで喰らってしまいました。

通常、航空機は1年毎に飛行機の構造や強度などの検査を受け、安全性を確認する「耐空証明」を受ける義務がありますが、一定の整備基準を満たした事業者に対しては、毎年の検査が免除される「連続式耐空証明」が交付され、基本的には1年毎の検査を受けなくても良くなります。現在、この「連続式耐空証明」は11社が認められていますが、認められた会社は厳しい安全基準を満たし、十分な整備体制を持っていると国にお墨付きをもらったようなもの。それが取り消されるという事は、「お前の会社は安全基準を満たしていない」と言われるようなものですから、日本貨物航空の犯した不正がいかに重大な事かが分かるかと思います。

 

国交省、NCAに事業改善命令 整備記録改ざん、連続耐空証明はく奪

 

問題が表面化したのは6月16日、「整備記録に事実と異なる記載が見つかった」と日本貨物航空が発表し、全11機の運航を停止した事から。それ以前の2017年1月にバードストライクで機体前部に運航を中止する必要がある程の大規模な損傷を受けましたが、航空日誌には「小修理」と記載してそのまま運航を続けました。運航中に大修理が必要なほどの損傷は「航空事故」として国に報告する必要がありましたが、NCAは報告せずにそのまま運航。さらに2018年3月にも大規模損傷を受けるほどの事故があったにも関わらず、5月まで国交省には報告しませんでした。

これを受けて国交省が立ち入り検査に踏み切り、調査の結果、整備記録のデータ改ざんが複数行われていたことが発覚します。先の全便運航停止はこの結果を受けての事ですが、実際は「事実と異なる記載」で済む話ではありませんでした。2017年4月12日には関空に向かって飛行していたNCA便が落雷に遭い、関空到着後成田に回送して整備することになりましたが、その際、整備記録が不明確だったことで具体的な内容が読み取れず、適切に整備しないまま運航に戻されたり、今年4月には補給・交換が必要だったフラップの潤滑油を交換せず、整備記録に改ざんした数値を記録するなど、安全管理がずさんだったことが発覚し、今日の業務改善命令となってしまいました。

 

7月5日以後、安全確認が終わった機体から運航を再開していますが、7月20日現在、11機のうち運航に復帰できたのは2機だけで、残りの機体はまだ安全の確認が取れていません。運航停止の原因が記録の改ざんや不適切整備ですから、確認に時間がかかるのも当然と言えるでしょう。他社への振り替えなどで物流に影響が出ているほか、運航停止の長期化と連続式耐空証明取り消しによる検査強化などで、NCAの業績にも打撃を与えるのは間違いありません。NCA側は「追加の点検や整備をしなくても済むようデータを改ざんした。機体をより多く飛ばすためだった」という趣旨の説明をしているようですが、改ざんの代償はあまりにも大きすぎました。

 

航空会社に取って「安全運航」は最も優先されるべきものですが、その安全運航を軽視してると言われても仕方のないようなことをNCAは犯してしまいました。航空会社として整備記録の改ざんや不適切な修理は恥ずべきものであり、安全より目先の利益を優先したと言われても仕方がないと思います。今回の業務改善命令は当然でしょう。

しかし、考えようによっては大事故を起こして尊い人命を失い、会社の存続に関わるような事態になる前に不正が発覚した事は不幸中の幸いとも言えます。NCAは今回の一件を真摯に受け止め、再発防止と管理体制の徹底的な見直しを行って、今一度安全運航に対して真摯になって欲しいと思います。

 

 

ピーチのA321LR発注とHACのATR発注

かねてより中距離国際線への参入を計画していたピーチですが、いよいよ具体的な動きが出て来ました。7月17日、ピーチは既に発注しているA320neo10機のうち2機を切り替える形で、A321neoの航続距離延長型のA321LRを発注しました。もちろん、日本初のA321LRの発注です。計画では2020年10-12月期に1機目を受領、2機目は2020年度内に受領予定ですので、中距離国際線への参入は2機目の納入後、2021年春ごろでないかと思います。今回の発表では具体的な投入路線の明言は避けましたが、「飛行時間7時間程度を考えている」とのことでしたので、東南アジア路線が有力でないかと思います。

 

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ピーチ、A321LRを20年度導入へ 井上CEO「片道7時間程度」

 

 

以前、当ブログでもピーチのA321LR発注の可能性に言及していましたが、やはりここは順当にA320との共通性が高いA321LRで落ち着きました。航続距離や共通性の面を考えると737MAXは可能性が低いなと思っていたので、ここは予想通りだなと思います。

一方、もう一社A321LRを発注する可能性があったジェットスタージャパンですが、こちらはJALが中長距離LCC参入を表明したので、グループ内の食い合いを避けるため、ジェットスタージャパンはこの分野には手を出さないのではと思います。したがって、航続距離重視のA321LRを買う必要性が薄れましたので、発注の可能性はかなり低くなったかなと思います。つまり、現時点ではピーチが国内唯一のA321LRのカスタマーになる可能性が高そうです。

就航に際しては「座席配置を見直す」としてますので、長距離運航を見越して今のA320よりも多少余裕を持たせるかも知れません。また、ジェットスターやエアアジアX同様、上級クラスを設けるかにも注目です。

 

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一方、7月18日には北海道エアシステムがサーブ340の後継としてATR42を確定2機、オプション1機発注するとの覚書を締結しました。2020年から導入予定です。JALグループとしてはATR機の導入は日本エアコミューターに続き2社目、日本でも3社目になります。

北海道エアシステム、ATR42-600発注へ サーブ後継、20年就航

 

JACがATR機を発注した際はその動向が注目されましたが、この時は発注はなし。その後、保有するサーブ340の座席を総取り替えした事で「当分置き換えは無しか?」と思われていましたが、最終的には置換えの方向になりました。

予定では2020年から導入され、既存のサーブを順次置き換えることになりますが、現時点では確定発注2機、オプション発注1機と、全機置き換えるには微妙な機数。今の便数を確保するには3機は必要なはずですし、かねてから予備機不足が指摘されていましたから、ひょっとしたら一気には置き換えず、当面はATRとサーブを併用する、と言うのは有り得ない話でしょうか。せっかくシートを替えたのに3年で置き換えは勿体ない気がするのですが、まあ20年は経ってる老朽機ですしねえ・・・これに関してはオプション発注分の確定発注切替や追加発注も考えられるので、続報を待ちたいところです。

 

相次いで新機材のニュースが入って来ましたが、ピーチにとっては中距離国際線進出の決定、HACにとっては会社設立後初の置き換えと、いずれも会社のターニングポイントとなる発注。小さい会社ほど機材選定は会社の命運を左右しますので、新機材導入が上手くいって新たな会社の顔として末永く活躍できるといいですね。

 

「合弁会社」で明暗を分けたエアアジア・ジャパンとジェットスタージャパン

ほぼ2か月ぶりの投稿となりました迷航空会社列伝、今回は初代エアアジア・ジャパンを取り上げました。ANAとエアアジアとの合弁で作られた会社でしたが、結果はご存知の通り1年ちょっとで合弁解消、会社はANAが引き取って別ブランドでのLCCでの出直しと言う結果になりました。現在はYouTubeのみの公開ですが、今週中にはニコニコの方でもアップしますので、ニコニコ派の方はもうしばらくお待ち下さい。

 


迷航空会社列伝「水と油の同床異夢」1年3か月で消えたエアアジア・ジャパン(初代)

 

さて、動画内ではエアアジア・ジャパンが失敗した理由を「東南アジアのビジネスモデルをそのまま持ってきた事」「成田空港を拠点にして柔軟な運用ができなかった事」「ANAとエアアジアの考えの相違」としましたが、実際のところはANAとエアアジアの考えが真逆で、最後まで会社の方針が定まらなかったことが理由の殆どだと思います。もっと言えば経営権や路線計画はANA、ブランドや実際の運航管理をエアアジアにしたことで会社として統一した意思が取れず、双方の領域で対立してしまったのも上手く行かなかった原因ではないでしょうか。

このように複数の企業による合弁会社は出資した会社が対等な立場な分、主導権争いに陥って空中分解するリスクを抱えています。最近の例だと富士フイルムとアメリカのゼロックス(正確にはゼロックスのイギリス法人が出資)が共同で出資した「富士ゼロックス」が、富士フイルムによるゼロックス本体の買収計画を機に富士フイルムとゼロックスとの対立が表面化、喧嘩別れの危機に陥っています。最悪の場合、長年欧米とアジアで事業を棲み分けてきた富士フイルムとゼロックスが別々のブランドで世界規模で対立する事態になり兼ねません。

 

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しかし、JALとカンタスの合弁会社のジェットスタージャパンにはエアアジア・ジャパンのような主導権争いをすることなく、現在でも良好な関係を築いています。ジェットスタージャパンの場合はJALとカンタスのほかに三菱商事と東京センチュリーリースも出資しているため、間に入る出資者がいることで単純にJALとカンタスの対立になりにくいのもあると思います。

それ以上にJALとカンタスは元々同じ「ワンワールド」の加盟会社ですから、以前より関係ができていたことも合弁がスムーズに行っている理由ではないかと思います。さらにJALは出資はするもののジェットスタージャパンの経営には口出しをせず、基本的にカンタスとジェットスターにすべてを委ねていますので、そもそも主導権争いが起こる要素がありません。現在は国際線乗継利用の場合に限りJALとのコードシェアも行っていますので、カンタスとジェットスターとの関係同様、JALとジェットスタージャパンとの関係も上手く棲み分けができているのかもしれません。

 

両社の例を見る限りだと、合弁会社と言えどもどちらかの会社が主導権を握った方が上手く行くのではないかと思います。「船頭多くして船 山に登る」ということわざがありますが、対等の精神にこだわり過ぎると主導権争いが起こり、会社の方針も定まらずに迷走してしまうケースも少なくありません。エアアジアにとっては高い授業料でしたが、今度のエアアジア・ジャパンではそのしくじり経験を生かして成功を納めて欲しいものです。

 

・・・今のところダメそうな雰囲気だけど。

 

日本に影響を与えた海外のLCC

東海道交通戦争、今回は日本のLCCについて取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章⑤「和製LCC三国志」

 

一般的にはピーチ、ジェットスタージャパン、エアアジアジャパンが相次いで就航した2012年を「LCC元年」と呼んでいますが、実際のところはその前から海外のLCCが日本に就航しており、海外LCCが相次いで日本に就航して勢力を広げたことが、ANAやJALにLCC設立を決意させたと言えます。今回は和製LCC設立に影響を与えた海外のLCCを紹介したいと思います。

 

①ジェットスター(オーストラリア・カンタス系列)

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カンタス系列のLCCとして2004年3月25日に運航を開始し、2007年3月25日にカンタスの路線を引き継ぐ形で関空ーブリスベンーシドニー線を開設。日本に就航したLCC第1号となりました。

動画内でも紹介した通り、大手レガシーキャリア系列のLCCは今までのビジネスモデルの感覚のままLCCを運営したため失敗しましたが、ジェットスターはカンタス本体と経営を分け、一切運営に口出しをしなかったことで成功を収めた初めてのレガシー系列LCCとなりました。また、大型機を使用して中長距離路線で成功した初めてのLCCでもあり、エアアジアXやスクートと言った他の中長距離LCCの設立にも影響を与えるなど、多くのLCCに影響を与えたパイオニアの一社とも言えます。

LCCでありながらパッケージツアーの卸売りやJALを始めとしたレガシーキャリアとのコードシェアも行うなど、LCCの原則にはあまりこだわらない方で、ジェットスタージャパンもジェットスター本体の方針には固執していないようです。日本路線就航当初は関西地区や中部地区で大々的にテレビCMを行った事で海外のLCCでありながら日本での知名度はある方で、これがジェットスター・ジャパンの設立にもつながったのかなと思います。

 

②エアアジア(マレーシア・独立系)

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元はマレーシアの政府系重工業企業傘下の航空会社でしたが、業績悪化で2001年にワーナー・ミュージックアジア地域役員だったトニー・フェルナンデスにわずか1リンギットで売却。そこからLCCに転換して徹底した格安運賃で急速にシェアを拡大、2004年にタイとインドネシアに子会社を設立し、2007年には中長距離路線用の「エアアジアX」を設立するなど、急速にアジア各地に路線網を広げています。

日本路線には2010年12月に羽田ークアラルンプール線で就航。羽田空港初のLCCとして話題となり、5000円の就航記念キャンペーン価格もメディアの注目を集めました。「エアアジアX」の名前はX Japanから取ったり、オリックスが10%を出資するなど、エアアジア・ジャパン就航以前から日本との関りがある航空会社です。

初代エアアジア・ジャパンはANAとの考え方の違いで1年余りで運航終了となってしまいましたが、2014年に第二のエアアジア・ジャパンを設立して日本市場再参入を表明。この時は楽天や化粧品大手のノエビア、大手スポーツ用品販売店のアルペンが出資しています。特に楽天はトニー氏と三木谷会長の個人的な親交もあって全面的に協力する姿勢を示しています。就航までには3年以上かかりましたが、2017年10月にようやく中部―札幌線に就航しました。

 

③春秋航空(中国・独立系)

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2004年に設立され、2005年7月18日に初就航した中国初のLCC。国際線に参入したのは2010年7月、上海浦東ー茨城間の定期チャーター便でした。現在では日本9都市に就航し、路線網も東アジアや東南アジアに広がっています。

日本への就航は前述の通り上海ー茨城線。当時は開港間もない上に就航路線がないと騒がれていた茨城に就航した事でメディアの注目を集めることになり、就航後も売り子役に徹するCAや、唯一の無料サービスともいえるエコノミークラス症候群対策の体操などで度々メディアに取り上げられるようになりました。

その後、日本への海外旅行需要の急増の波に乗って急速に路線網を増やし、遂には日本でLCCを立ち上げることになります。そのLCC「春秋航空日本(スプリングジャパン)」は思うように路線網を広げられず、存在感が薄いものの現在も成田発着の国内線、国際線を中心に運航しています。

 

④ライアンエアー(イギリス・独立系)

1985年にアイルランドで設立されたLCCで、当初は普通の航空会社でしたが、1997年のEU航空自由化を機に格安路線に舵を切り、超が付くほどの格安運賃で急成長を遂げた欧州LCCの代表格。そのビジネスモデルはLCCの元祖・サウスウエスト航空のものを忠実に守っていますが、その一方で就航先の空港に着陸料の大幅割引や補助金を要求し、十分な支援が受けられないと判断するとすぐに撤退したり、競合他社に対して露骨なネガティブキャンペーンを行うなど、物議を醸したり、他の航空会社に訴えられたりすることもしばしば。世間の注目を集めるために立ち乗りや機内トイレの有料化などあり得ない提案をするなど、好き嫌いがはっきり分かれる航空会社です。

これも動画内で触れましたが、ピーチ社長の井上慎一氏が会社を立ち上げる際、一番参考にしたのがライアンエアーでした。賛否両論はありますが、利用者に媚びない、エッジの利いたブランドを持つライアンエアーのポリシーはピーチのビジネスモデルを構築する際に大いに参考にしたそうです。言われてみればピーチのサービスやキャンペーンはエッジの利いたものが多いような気がします。たこ焼きの機内販売とか関西弁のアナウンスとかBMW MINIを機内販売するとか。ライアンの物議を醸すようなことまでマネしなくてよかった。

 

以上、日本に影響を与えたLCCについて紹介してきました。この他にも日本にはタイガーエアやスクート、エアプサンやジンエアー、チェジュ航空に香港エクスプレスなど様々なLCCが乗り入れてきています。関空や成田、佐賀などLCCのおかげで利用者減の危機を回避できた空港も多く、もはや日本の航空業界はLCC抜きでは成り立ちません。その一方で日本にはまだLCC空白地帯ともいえる地域が少なからずあります。仙台以外の東北や北陸、山陰地方などはLCCの就航が海外の会社も含めてあまりないので、今後はそう言った地域にもLCCの恩恵が広がればいいなと思います。想像もしなかった路線や格安運賃で利用者を驚かせてきたLCC各社。次はどんな驚きがあるのでしょうか。

チャイナエアラインの富山便、強風で着陸をやり直して重大インシデント。

7月8日、この日はウラジオストク―富山間のチャーター便が来るという事で撮影に行ってきました。運行するヤクーツク航空の機材はロシア製の最新リージョナルジェット機、スホーイスーパージェット。日本では成田に週2便運航されるだけのレア機材で、富山にロシアからのチャーター便が運航されること自体3年ぶりの事。これは是非押さえたいと思ったんですよ。

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で、お目当てのヤクーツク航空のスホーイは撮れたのですが、これだけならブログの記事にすることはありません。実はこの日、チャーター便以上にニュースになってしまった重大インシデントが富山空港発着便で起こってしまい、偶然その飛行機を撮っていたのです。

 

この日はチャイナエアラインの定期便も昼前に来るのでそれも抑えようと思い、スホーイが離陸した後、いったん撮影していた神通川河川敷を離れ、早めの昼食を済ませてから河川敷に戻ってきました。

11時55分頃、富山湾方向から飛んできたチャイナエアライン170便が着陸態勢に入りましたが、風の影響からか、いったん大きく迂回して南側から着陸するルートを撮りました。ちょうど札幌行きのANA便が離陸しようとしていたところで、先にANA便を離陸させてからの着陸になりました。

 

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ところで富山空港は日本で唯一河川敷にある空港なのですが、富山湾からの風が強いときは海側から来た飛行機はいったん空港を通り過ぎて山側に向かい、Uターンして南側から着陸します。すぐ後ろには山が迫っている上にカーブを終えたらすぐ滑走路なのでこれを低空で行わなくてはいけないので着陸難易度の高い空港です。どれだけ難しいかはANAさんの下記の記事をご参照ください。

www.ana.co.jp

 

この日のチャイナエアラインも下の写真のように大きくカーブして滑走路に侵入してきました。写真では分かりにくいですが、機体は強風で結構左右に振られています。

 

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いつもならこれで着陸、となるのですが、どうも着陸するには高度が高いような・・・と思ったら急にエンジン出力を上げて急上昇。そのまま上空へと上がっていきました。どうやらゴーアラウンド(着陸やり直し)の様です。

 

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この日は日本中に甚大な被害をもたらした集中豪雨の影響で風が強かったのですが、まさか目の前でゴーアラウンドをするとは思ってもみませんでした。相当条件は良くないようです。

12時15分頃、再び同じルートで着陸を試みます。が、もうすぐ接地と言う所で再び急上昇して2度目のゴーアラウンド。ゴーアラウンドなんてそうそう見るもんじゃないですし、私自身も実際にゴーアラウンドを見たのはこれが2回目です。が、同じ機体で2度も見るのは初めてでした。

 

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そして12時25分、チャイナエアライン170便は3度目の着陸を試みます。

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が、3回目は近くまでは来たものの、空港上空でそのままUターンして北の方へと飛んで行ってしまいました。恐らくアプローチする前に着陸は不可能と判断し、他の空港に向かったのでしょう。その後中部空港に向かった事が判明し、この後別の用事もあったので引き上げることにしました。

 

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後で気になって調べてみたら、13時過ぎに中部空港に無事着陸し、その後給油を行って再度富山空港に離陸。15:30頃、今度は無事に着陸したようで一安心。

 

・・・と思ったら夜のニュースで実は全然無事じゃなかったことが発覚。中部空港に向かう途中、燃料の残りが少なくなり、緊急事態を宣言して緊急着陸していたのです。国土交通省は事故に繋がりかねない事態としてこの緊急着陸を「重大インシデント」に認定し、調査に乗り出しました。

 

www.knb.ne.jp

 

過去の重大インシデントの事例をみても調査結果が出るまでには1年くらいかかっているようなので、今この時点でとやかく言うのは避けたいと思います。ですが素人考えでは2度目のゴーアラウンドの時点で残りの燃料を確認して他の空港に変更すれば重大インシデントにはならなかったのでは?と思ってしまいます。

調査結果が待たれるところではありますが、国交省とチャイナエアラインには原因をしっかり突き止めて再発防止に活かして貰いたいなと思います。空の安全は何物にも代え難いものですから・・・