〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

両備の捨て身の問題提起・・・もう「自由競争」「民間任せ」だけでは地域の足は維持できない

このブログでは基本的に航空と鉄道の話を中心にするつもりでしたが、今回の話は単なるバス路線の話だけでなく、地方の交通インフラ全般に関わる話ですので取り上げたいと思います。

2月8日、岡山県を地盤とする両備グループが、グループの両備バス、岡山電気軌道のうち赤字31路線を一斉廃止するとの報道がありました。

 

www.sanyonews.jp

 

実際のところ、廃止になる31路線は他社との共同運行路線や他の路線と重複する区間もあるので、廃止になったからと言ってバス路線がごっそりなくなるというわけではなさそうですが、それでも地元岡山県にとっては大きなニュースです。

 

そして、このバス路線廃止が今までのケースと違うのが、路線維持が限界に達して廃止になるのではなく、今後の地域公共交通の在り方に対する問題提起として発表されたこと。そもそもの発端は岡山市内循環線「めぐりん」を運行する新規参入業者・八晃運輸が、両備グループのドル箱路線に両備よりも100円~150円安い運賃で参入しようとして認可申請を行った事。両備グループのバス路線大量廃止計画はこの参入への反発が原因ではありますが、この経緯だけを見ると両備グループが赤字路線を人質に取って八晃運輸に撤退を迫っているように見え、「大手企業による新規参入社いじめ」とも取れます。

しかし、この問題はそんな単純なものではありません。地方であればどこでもそうですが、バスの利用者はマイカーの普及が進んだ1970年代以降右肩下がりを続けており、どこの会社も路線バス部門は赤字。それでも90年代までは路線バス部門の黒字路線や貸切バス部門、高速バス部門などで赤字路線の内部補てんが可能でしたが、それもバス業界の規制緩和で貸切バスへの参入が容易となり、高速ツアーバスが急速に伸びてくると貸切バスや高速バス部門は競争激化で収益性が低下し、内部補てんができなくなってしまいます。

それまでもジリ貧だった地方の不採算バス路線を支えきれなくなったバス会社は次々と路線廃止を行いますが、自治体がお金を出してコミュニティバスを走らせられたのはまだいい方。自治会でお金を出して乗り合いタクシーを運行しなくてはいけなくなったり、最悪はバス路線そのものが消えたケースも少なくありません。元々構造的に維持が難しかった地方のバス路線にとどめを刺したのが規制緩和と言っても過言ではありません。

 

そんな中でも地域の足を守るために奮闘してきたのが両備グループ。「たま駅長」で一躍有名になった和歌山電鉄を始め、広島県福山市の中国バスや破産した井笠鉄道バスの経営を引き受けるなど、地方交通の救世主として注目を集めてきた会社であり、グループ代表の小嶋光信CEOも「地方交通再生請負人」として話題となっている方です。

 

日本一のローカル線をつくる: たま駅長に学ぶ公共交通再生

日本一のローカル線をつくる: たま駅長に学ぶ公共交通再生

 

 

地方交通を救え!―再生請負人・小嶋光信の処方箋 (交通新聞社新書)

地方交通を救え!―再生請負人・小嶋光信の処方箋 (交通新聞社新書)

 

 

そんな両備グループが問題提起として掲げた今回の廃止届。両備グループも決して経営に余裕があるわけではなく、3~4割の黒字路線で残りの赤字路線を支えている状況。両備グループ全体を見ても一番の稼ぎ頭は売り上げベースでは1割しかない不動産部門で、交通部門は一番売上高が高いにも関わらず利益は不動産部門の半分ほどしかありません。両備グループの試算では今回の八晃運輸の参入が現実となった場合、競合路線の運賃収入減少などで岡電バス、両備バスともに4割の減収を見込んでおり、収益性悪化で内部補てんが難しくなるのも当然のように思われます。

 

これまでの両備グループの取り組みを考えても、今回の廃止届が私利私欲の為ではないと思いますし、本当なら両備グループも小嶋氏もこんな形で廃止届なんて出したくはなかったでしょう。人口増加傾向にあり、需要の伸びが見込まれる首都圏のバス路線ならともかく、地方都市クラスで競争を起こしても過当競争になって疲弊し、共倒れになり兼ねません。両備グループも昨年3月に路線の認可申請がされた後、意見書を提出していますが、全く協議されることもなかった為、「最後の手段」として今回の廃止計画を出して関心を持ってもらおうとしたのではないでしょうか。

 

もう一方の当事者である八晃運輸は今回の廃止計画に対し、「まだ新路線の運行が始まっておらず、何も結果が出ていない段階で今から赤字路線をやめるというのは理解しがたい。利用者目線で考えてほしい」というコメントを出しています。八晃運輸にしてみれば正規の手続きを踏んで認可申請を出したのに何でうちが悪者扱いなんだ、という気持ちかも知れませんが、黒字路線だけを狙い撃ちできる新規参入会社と、赤字路線を多く抱えながらも地域の住民のためにと長年踏みとどまってきた老舗のバス会社を同列に語るわけには行きませんし、老舗のバス会社は深く地域に根差してきた分、簡単に辞めることは許されません。まるで当てつけかのように路線廃止計画を発表したその日の夜に認可を出したのも、行政サイドが事の重大さを認識していないような気がします。

 

今回の一件は交通弱者の最後の砦ともいえる路線バスの在り方を考えるきっかけにしなければならないと思います。行政も、バス会社も、利用者も、そして私を含むドライバーも真剣に公共交通の在り方や将来にわたる維持の方法を議論すべき時ではないでしょうか。長年地盤の岡山県のみならず、他県の公共交通も守ってきた両備グループが出した問題提起だからこそ、その意義は非常に重いです。最後に両備グループのポータルサイトに掲載された今回の路線廃止計画に対する小嶋代表のメッセージの一部を抜粋します。全文は下記のサイトに掲載されています。是非全文を読んで、今回の問題について考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。

 

緊急発表 (平成30年2月8日午前) 全国の地域公共交通を守るために、敢えて問題提起として赤字路線廃止届を出しました。 | 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ ポータルサイト - Ryobi Group -

 

何故急いだ競合会社の路線認可? | 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ ポータルサイト - Ryobi Group -

 

~以下、上記代表メッセージから引用~

昨日の朝「全国の地域公共交通の路線網の維持のために、敢えて、問題提起として路線を廃止」という記者発表をしたら、異例にも、その晩に急遽、その路線が当局で認可になったようです。
本件は、地域公共交通を守るためには国はどうあるべきか、地域の自治体や市民、識者の判断はどうか等々の多角的な視点から検討されなくてはならない影響の大きな事案です。道路運送法や交通政策基本法の理念や責務、努力義務などに照らしてみても本来前述のような多くの方々の間で協議すべき事案ですが、昨年3月末に申請されて以来、認可までの間には十分な時間があったにも拘わらず全く議論がなされていないのです。それは、何故なのか?当局は、なぜここで地域公共交通の実情を直視し、寄り添って考えてみようとしなかったのか、疑問が湧くと同時に、非常に残念です。

(中略)

規制緩和で、地域を守るべき地方自治体には財政負担が重くのしかかり、バス事業者は歯を食いしばって必死に路線網を支えてきたという苦労を国はご理解いただけているのでしょうか?
真に理解されているのであれば、本件のような申請に対して、供給が十分な路線に3割もの供給過剰と、3割から5割の低運賃を認めて、滅びゆこうとしている地域公共交通の足を引っ張ることはないでしょう。

~引用ここまで~

 

個人的にはガソリン税の一部を公共交通維持のための設備更新費や乗務員の育成、給与補助に使う事を提案したいと思います。地域の足を利用者の運賃収入と事業者の自助努力だけで維持するのはもう限界ですが、今更マイカーを手放すというのも難しい相談ですので、我々ドライバーも含めた全員が薄く広く負担して、地域全体で地域の足を支えるシステムが必要なのだと思います。その目的のために使われるのであれば、私は喜んで負担増に応じます。いつか車に乗れなくなった時の事を考えると移動手段が全くなくなるのは非常に困りますから、将来の為の保険、という意味も込めて。

 

もう、自分達の足をバス会社任せにして見て見ぬふりをするのは辞めませんか?

 

【2/25追記】

両備バス廃止問題の続報記事も書きました。こちらも合わせてご覧下さい。

 

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「北陸新幹線最強伝説」で空路は不要になったのか

2月6日ころから北陸地方を襲った大雪は今も福井県を中心に大きな影響を与えています。小松空港は8日の今日も全便欠航が決定、JRの在来線も金沢~福井間が未だに不通で関西・中京方面の特急は全滅。道路も北陸道はようやく全線開通したものの金津・丸岡ICは閉鎖したままですし、国道8号線もまもなく開通する見込みですが、最大で1500台が立ち往生し、自衛隊の災害派遣要請を行うほどの大災害になりました。

当然、私の住む富山県も雪の影響は大きく、6日は雪かきで仕事どころではありませんでした。で、それが原因なのか風邪をひいて只今体調不良です・・・

 

しかし、そんな危機的状況の中でも唯一影響がほとんどなかったのが北陸新幹線。6日に一部徐行運転を行い、「つるぎ」2本が運休となった程度でその後はほぼ定時運転を続けています。北陸新幹線が雪に強い理由は下記の記事を参照して頂ければと思いますが、この他ダイヤに余裕を持たせているのも定時運転に貢献しているようです。

trafficnews.jp

 

一部では税金の無駄使いの象徴のように言われている整備新幹線ですが、図らずも今回の大雪で雪国のインフラとしては有用なものだと証明した格好です。北陸新幹線のお陰で少なくとも富山・石川は完全な孤立化を免れましたし、「整備新幹線不要論」も少なくとも北陸と北海道新幹線に関しては大雪時のインフラとして必要な工事であると思うので当てはまらないのではないでしょうか。

 

さて、今回の大雪で「北陸新幹線最強伝説」にまた新たな1ページが加わったわけですが、だからと言って「もう対東京のインフラは新幹線だけでいいんじゃね?飛行機要らなくね?」と思うのは早計です。確かに今回の大雪で空港の滑走路は閉鎖され、航空路線は雪国での脆弱性を露呈しましたが、全ての災害に対して弱いとは限りません。

例えば1995年の阪神・淡路大震災の時も、2004年の新潟県中越地震の時も、2011年の東日本大震災の時も、新幹線は震災で路盤や線路設備が崩れ、長期間の運休を余儀なくされました。ここで「新幹線は地震に弱い」と言うつもりは毛頭ありません。むしろ日本の新幹線技術は地震大国日本を想定した作りになっていますし、震災後の復旧も比較的早いものですから、他国と比べてもかなり優秀なものだと思います。北陸新幹線についても阪神・淡路大震災の時の教訓が生かされていると思うので、仮に沿線で大地震が起こったとしても過去の新幹線ほどには被害を受けないかも知れません。

 

しかし、線で結ぶ新幹線はどこか1か所でも寸断されればそのネットワーク力を活かすことはできません。これに対して空路は極端な話、空港さえ無事なら飛行機を飛ばすことができますし、震源地近くの空港が使用不能になっても近隣の空港である程度はカバーできます。実際、東日本大震災の時も近隣の福島、山形、花巻の空港に羽田行きの臨時便が多数設定され、4月29日の東北新幹線運転再開までは空路が東京と東北各地を結ぶ重要なインフラとして機能しました。「雪に強い北陸新幹線があるから空路は不要」という話ではなく、新幹線も空港もインフラ設備としては必要なもので優劣をつけるものではないと思います。万が一の事態を考えると交通手段は多いに越したことはありませんし。

 

そしてもう一つ、今の羽田便は単純な東京~富山・石川県の移動手段だけでなく、国際線の乗り継ぎや航空貨物という新たな役割があるという事。過去の新幹線開業時の航空路の例と違い、羽田~富山線がある程度残ったのも羽田発国際線の乗り継ぎや航空貨物を考慮している部分もあると思います(ちなみに富山発の第1便だけが767なのも航空貨物を考慮しての事。737はコンテナが積めないという弱点がありますから)

北陸新幹線の開業で絶対的な信頼を寄せられるインフラができたことは喜ばしい事ですし、それが今回の大雪でも絶大な力を発揮しましたが、空路も大事なインフラの一つ。今回の大雪で「だから飛行機はダメなんだ」と言わず、両方を維持できるよう、使い分けることが大事なんじゃないかと思います。

 

2018-2022年度ANAグループ中期経営計画に見る路線計画の展望

少し前の動画になりますが、航空各社の2018年度の運航計画をまとめた動画をアップしました。

 


【ANAグループ編】迷航空会社列伝特別編・2018年航空各社運航計画


【JALグループ編】迷航空会社列伝特別編・2018航空各社運航計画


【スカイマーク・エアドゥ・FDAなど】迷航空会社列伝・各社運航計画2018

 

今年は各社とも大きな路線開設や新機材導入のニュースもなく、比較的静かな1年となります。ここ数年は国際線の開設ラッシュが続いた反動とも言え、各社とも今年は足場固めの一年と位置付けているようです。また、来年度はANAはA380や787-10、JALはA350と国内線用787の導入があるため、それらの機材受け入れの為の準備の年でもあります。航空ファン的には話題が少なく物足りない一年かも知れませんが、その分来年は新機材導入や、東京オリンピックを見据えた国際線の新規開設や増便が期待されますので、来年の運航計画を楽しみに待ちたいところですね。

 

 

さて、2月1日にANAグループの2018~2022年度の中期経営戦略が発表されました。ここでもやはり東京オリンピックやアジア経済の好況、旺盛な訪日需要を見据えて国際線の拡大方針が明記されています。

2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略について|プレスリリース|ANAグループ企業情報

trafficnews.jp

 

詳細についてはまた解説動画を作ろうと思いますので、ここではANAグループの路線展望に絞って書きたいと思います。

ANAグループの大まかな収益構造は国内線と国際線で3分の1ずつ、残りの3分の1を貨物とLCC事業、航空以外の事業となりますが、今回の中期計画では国内線は現状維持、国際線は2018年比で150%、貨物は140%、LCCは200%、航空以外の事業で120%と、創業以来の収益の柱である国内線以外で稼いでいく方針が鮮明となっています。国内線に関しては少子高齢化でこれ以上の伸びは見込めませんので、これは妥当な計画かと思います。伸び率だけを見るとLCC事業を伸ばしていくようにも見えますが、ANAグループ全体で見れば1割にも満たない比率なので、倍になっても今後の収益の柱とは言い難い規模です。

となるとやはり今後の収益の柱であり最大の成長事業と見込んでいるのは国際線事業でしょう。中期計画通りに推移すれば2022年度のANAグループの国際線事業の売上は9000億以上となり、国内線を完全に上回ります。当然、それだけ拡大させるという事は今までの路線計画では考えられないような路線も開拓していかないと達成はできないという事。実際、ANAも今後の国際線戦略として自社路線網の空白地帯である「ホワイトスポット」への就航を掲げています。

 

では、そのホワイトスポットへの路線はどこが考えられるか。真っ先に思いつくのはJALしか飛ばしていないモスクワや、日本の航空路線が途絶えたブラジルへの路線です。このうちブラジル方面はスターアライアンス内にアビアンカ航空がいますので、比較的参入しやすいのではと思います(ただし、ブラジル方面に関しては過去に就航歴のある上にアビアンカより遥かに強力なLATAMの協力を得られるJALの方が参入しやすそうですが)。また、同じスターアライアンス内にいる会社がいる路線、という考え方をすれば、ターキッシュエアラインズのいるイスタンブール、エジプト航空のいるカイロ、エチオピア航空のいるアディスアベバ、南アフリカ航空のいるケープタウン辺りもホワイトスポットを埋める路線としては有力です。

そして、個人的に可能性があるんじゃ?と思うのが、ANAと提携しているエティハド航空の本拠地であるアブダビ。中東御三家の一角を占めるエティハド航空ですが、他地域の航空会社に出資して独自のアライアンスを作る戦略はエアベルリンの運航停止と穀潰しアリタリア航空の破たんで仕切り直しを迫られています。となると次の方策として考えられるのが、資本提携に頼らずに各地の有力航空会社と手を組む「全方位外交」。実際、アブダビにはエティハド以外にもヨーロッパやアジア各地の航空会社が乗り入れていますし、ANAもエティハド航空とはコードシェアを行っています。

エティハドもアジア側のパートナーを増やしたいところでしょうし、ANA側もアブダビに飛ばしてエティハドの路線網に接続できれば特に南ヨーロッパや中東・アフリカ方面への路線網補完が可能となります。JALが加盟するワンワールドには中東御三家の一角、カタール航空がいますし、もう一つの中東御三家のエミレーツ航空は既に自力で強大な路線網を築いていますから、これはお互いの為にも結構ありだと思うんですがどうでしょ?

 

その他の路線ではニュージーランド航空のいるオークランドやヨーロッパではJALのヘルシンキ線に対抗してスカンジナビア航空の就航地であるコペンハーゲンかストックホルム、東欧地域でLOTポーランド航空のいるワルシャワと、同じスターアライアンス内の航空会社でも直行便のない地域は結構ありますので、まだ伸びしろはありそうです。お隣韓国の大韓航空はタシケントやコロンボ、プラハにパラオなど、日本の航空会社ではまず飛ばさないような路線にまで飛ばして自社路線網を充実させていますので、今後のANAグループがどこに飛ばすのか、来年以降の路線計画に期待したいところです。

 

 

 

 

ニキ航空、まさかの創業者買い戻し

エアベルリングループで昨年12月に連鎖倒産したニキ航空ですが、創業者であるニキ・ラウダが買い戻し、3月の運航再開を目指すことになりました。

 

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・そもそもニキ航空って?

 ニキ航空は2003年、1970年代~80年代前半にかけて活躍したF1レーサー、ニキ・ラウダがオーストリアのアエロ・ロイド・オーストリアを買収し、自らのファーストネームをつけた「ニキ航空」に改称したのが始まりです。ラウダにとって航空会社の設立はこれが初めてではなく、1978年に「ラウダ航空」という航空会社を設立し、一時は成功を収めましたが、1991年に墜落事故を起こし(ただしこの事故は機体の欠陥が事故原因ですのでラウダ航空の責任ではないのですが)、経営が悪化。その後経営は持ち直したものの、2000年にオーストリア航空に売却され、その後吸収されてしまいました。

 ニキ航空はラウダにとってリベンジの舞台であり、チャーター便を中心に経営を続けていましたが、これも結局はドイツのエアベルリンに売却し、ラウダは航空会社経営から手を引きます。その後のニキ航空はエアベルリン系列の航空会社として存続し、一時はエティハド航空のコードシェアと言う形で「日本乗り入れ」をしたこともありますが、昨年のエアベルリンの破たんの巻き添えを喰らう形で経営破たんしました。

 

エアベルリンの破たん後、ニキ航空を含めた資産の大半はルフトハンザグループが買収する予定でしたが、欧州委員会がドイツ、オーストリア、スイスでのルフトハンザグループの影響力が強くなりすぎると懸念を示し、12月13日にニキ航空の取得を断念。先の見通しが立たなくなったニキ航空は運航停止に追い込まれました。その後、年明けにブリティッシュエアウェイズとイベリア航空が中心のインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)がニキ航空買収に手を挙げ、グループのブエリング航空の参加におさめるとの報道がありましたが、これも不調に終わり、最終的にはトーマスクックグループとコンドルと組んだラウダが買い取ることで決着しました。

 

・ニキ・ラウダの航空ビジネスの「3度目の正直」なるか

 三度航空ビジネスに参入することになるラウダですが、その展望は厳しいものです。ヨーロッパの航空会社間の競争は激しく、経営に行き詰まって消えた会社も少なくありません。昨年だけでもエア・ベルリンとイギリスのモナーク航空が運航停止となり、イタリアのフラッグキャリア、アリタリア航空も予断を許さない状態です。LCC大手のライアンエアーですら、パイロット不足で拡大にブレーキがかかる位ですから、かつてラウダ航空を拡大させた時とは勝手が違います。

 

新生ニキ航空が生き残る為には単なる規模拡大や価格競争だけでない、ニキ航空のブランド確立と独創的なサービスを提供できるかにかかっています。かつてのラウダ航空はジーンズを履いたCAや機内食の盛り付けだけにシェフを乗せたりするなど、型破りなサービスで話題を集めました。

幸いニキ航空には伝説のF1ドライバー、ニキ・ラウダのブランドと言うアドバンテージがあります。その知名度が有効なうちに新たなブランドイメージを確立し、ヨーロッパの空の荒波を乗り越えてもらいたいものです。

自由競争とは程遠い航空機メーカーの競争

カナダのボンバルディア社の旅客機「Cシリーズ」のアメリカ国内での販売を巡る不当廉売訴訟で、アメリカ国際貿易委員会はボンバルディアの主張を認め、不当廉売はなかったとする決定を下しました。

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これはCシリーズを確定75機、オプション50機発注したデルタ航空に対し、ボンバルディア社が不当に安い値段で売ったとしてボーイングが訴えを起こしていたもので、アメリカ商務省もCシリーズに対し292.1%の関税を課す仮決定をしていました。この決定は国際問題に発展し、カナダ政府は対抗措置としてボーイングの軍用機を購入しないと表明したばかりか、ボーイングに対抗するべくボンバルディアはエアバスとの提携を結び、Cシリーズ事業へのエアバスの出資や一部機体をアメリカのエアバス工場で製造するなどの対抗措置を取りました。さらにボーイング側もこの連合に対抗するべくブラジルのエンブラエルとの提携交渉を行うなど、航空機メーカーの再編にもつながりかねない事態にまで発展しました。

 

しかし、この制裁措置もITCの判断次第と言う事もあり、ITCがどのような判断を下すかが注目されましたが、結果は4人の委員全てが「アメリカ航空機産業には損害を与えない」とボンバルディア側を支持し、満場一致でボーイングの訴えを却下。ボーイング優勢との下馬評を覆し、ボンバルディア側の完全勝利となりました。

 

さて、今回の結果についてですが、私は妥当な判断であったと思います。そもそもボンバルディアのCシリーズは100席~150席級の小型ジェット機であり、ボーイング737の市場を脅かすには一回り小さいサイズ。既に737の売れ筋はCS300と多少バッティングする短胴型の-700型からより胴体の長い‐800型、‐900型に移っており、エアバスA320シリーズにしても長胴型の方に発注が集まっています。Cシリーズにバッティングする機種にしてもボーイング717や737-600は既に生産中止、エアバスA318も新規受注はない状態なので、Cシリーズはこれらの機種の市場を脅かす存在と言うよりは、737やA320が捨てつつあった市場を埋める機種と言う性格が強く、今回のボーイングの主張は少々無理筋な気がします(不当廉売したのがA320シリーズならまだ分かりますが)

さらに航空機の価格がカタログプライス通りに販売されることは皆無に近く、大抵は大量購入などでディスカウントしますし、新機種のローンチカスタマーやそのメーカーの使用経験が無い場合はリスクに対する対価や実績作りの為に大幅に値引きするのはよくある事です。

値引きはボーイングも少なからずやっている事ですし、アメリカ政府がバックに付いてる巨大なボーイングと規模の小さいボンバルディアとではまともにやり合ったら太刀打ちできないのは明らか。立場の強いボーイングが破格の値下げをすれば不当廉売ですが、実績がなく、立場の弱いボンバルディアに取っては値下げはむしろ巨人ボーイングに対抗するための苦肉の策です。

 

普通に見ればボーイングによるライバル潰しの言い掛かりに近いのですが、アメリカファーストの保護主義を進めるトランプ政権下では認められる可能性も十分にありました。

しかし、ITCがボンバルディア支持の決定を下したのは大統領が変わっても国の方針が180度変わるわけではないと言う、アメリカの司法の成熟度を証明したと思います。

そもそもユーザーである航空会社にしてみれば航空機調達でも一社独占で値段が高止まりするよりは複数のメーカーで競合して安く調達できる方がいいですし、長い目で見れば浮いたお金をサービスや値下げの原資にして利用者にも還元されるでしょう。かつてのダグラスDC-10とロッキードL-1011のように無理な過当競争でメーカーが倒産したり、大事故に繋がったら本末転倒ですが、独占もまた航空会社やユーザーの為にはなりません。そう考えると今回の決定はアメリカにもまだ保護主義を是としない人が一定数いるのだと安心しました。

JR東海もWiFi無料へ・国内ネット環境戦争勃発?

1月26日、JR東海が東海道新幹線のN700系と高山本線の「ひだ」で無料社内WiFiサービスを提供すると発表しました。今年の夏から順次サービスが始まり、東海道新幹線は2019年度の冬までに対象のN700系全車に設置、高山線は2018年度中に設置が終わる予定です。さらに東海道新幹線の全駅と管内の主要駅でも無料WiFiサービスを開始するなど、一気に無料ネット環境を整備する大盤振る舞いです。

 

trafficnews.jp

 

これまでも車内WiFi設備がなかったわけではありませんが、携帯各社が提供している有料WiFiサービスで事前に事業者との契約が必要なもの。契約や設定が面倒で使ってなかったという人や、そもそもサービスがあったこと自体知らなかった人も多かったのではないでしょうか。

それにしても東海道新幹線だけでなく、高山線特急にも設置するとは意外でした。東海道新幹線は顧客サービスや航空機との対抗上、いずれ設置に踏み切ると思っていましたが、高山線の場合は航空との競合がない上に対象車両のキハ85系も製造から25~30年と古く、WiFiサービスを行うにしても2022年以降投入される新型ハイブリッド気動車からだと思っていましたので。数年後には置き換える予定の車両にあえてWiFiを設置するのはやはり近年伸びている外国人旅行者対策なんでしょうね。

 

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しかし、この車内WiFi設備、他の交通機関では一般的な設備となりつつあり、バス業界では都営バスでは無料WiFiサービスを既に始めてますし、高速バスでも阪急バスや一部のJRバスなどでは無料WiFiサービスを実施。航空会社を見ても昨年6月に国内線機内WiFi無料化に踏み切って話題となった日本航空や4月から追随するANAグループ、優良・無料を問わず機内WiFi提供が当たり前になりつつある海外の航空会社など、ここ数年で急速に増えてきています。大手私鉄や東京メトロでも訪日外国人向けに無料WiFiサービスを提供する会社が増えており、政府も訪日外国人の誘致に向けて鉄道会社にWiFi整備の努力義務を課す法整備を進めています。むしろ新幹線はWiFi環境に関しては周回遅れになっていたくらいです。

www.kotsu.metro.tokyo.jp

www.jal.co.jp

trafficnews.jp

 

さて、ここで気になるのは他のJR各社、特にJR東日本と西日本の対応です。JR東日本で車内インターネットサービスを行っているのは常磐線のみ(しかも有料)、新幹線の車内WiFiは有料すら設定なしと言うJR東海以上の周回遅れ。とは言えごく一部の車両で訪日外国人向けに試験的に無料WiFiサービスを行っていますので、いずれは訪日外国人向けにサービスを行うかもしれません。

JR西日本に関しても駅の無料WiFiサービスは充実していますが、新幹線車内のWiFiサービスは有料も含め今のところなし。2018年夏以降、北陸新幹線で訪日外国人向けの無料WiFiサービスを実施する予定ですが、山陽・九州新幹線に関しては今のところ相互乗り入れを行うJR東海に追随する動きはありません。JR西日本の場合、資金面での問題もそうですが、九州新幹線で相互乗り入れを行うJR九州との調整もありますので、簡単にはWiFiサービス導入に踏み切れない事情があるのかも知れません。

 

しかし、今回のJR東海の無料車内WiFiサービスがJR西日本側にWiFi設備の設置を促す可能性はあると思います。なぜなら今回WiFiサービスが設置されるのは「JR東海保有のN700A系」のみ。同じ東海道新幹線内を走るN700A系でも「JR西日本保有のN700A系」は今のところ車内WiFiサービス設置の予定はなく、JR東海車とJR西日本車でネット環境に格差が出ることになります。さらにJR東海保有車両も無料車内WiFiのサービスは東海道新幹線区間のみ。新大阪以遠は無料WiFiの対象外となり、特に岡山や広島などの山陽新幹線直通利用客にとっては途中でWiFiが切れる事になります。

JALやANAが機内WiFiを無料化することを考えると、航空機との対抗上、WiFiサービスが全くないのは特に訪日旅行客誘致の面では不利になるのではないかと思いますので、いずれJR西日本も無料車内WiFiサービスの設置に踏み切るのではないかと思います。ただ、その場合でもJR東海との兼ね合いや航空機との対抗上、山陽新幹線区間と東海道新幹線直通対応車両が優先されると思いますので、九州新幹線直通車両やJR西日本管内だけを走る「こだま」用車両は後回しになるのではないでしょうか。

 

いずれにしろ、海外では公共交通機関の無料WiFiが一般的になっており、日本の新幹線は出遅れ感が否めません。今後日本の人口が減少していくことを考えるとJR各社も訪日旅行者の取り込みは今後の課題になるはず。車内WiFiの設置はもちろんですが、自社の収益向上の為にも外国人にも使いやすい鉄道の整備を期待したいところです。

やっぱりか・・・エア奄美解散

昨日はイースタン航空のMRJキャンセルの話題が出ていたのでこれを書こうと思っているところに、エア奄美の就航断念、解散のニュースが飛び込んできました。

エア奄美、2月末解散 地方創生型LCC、就航断念

 

エア奄美は2016年5月に設立され、徳之島空港のある天城町に本社を置いて奄美群島と関西・沖縄を結ぶ路線の開設を目指して準備を進めていました。「地方創生型LCC」と銘打ち、奄美群島を結ぶ旅客路線はもちろん、奄美の特産物の輸送・販売にも取り組むとし、奄美色を前面に押し出したサービスを考えていたようで、エア奄美を支援する社団法人もあったようです。

www.air-amami.co.jp/

www.air-amami-shien.com

 

既に従業員の募集も行ってパイロットなども採用済みですが、結局は資金調達のめどが立たず、2月末での解散が決まりました。昨年の11月17日に従業員の採用を一時中断しており、今月再開予定だったところへの今回の解散ですから、恐らくこの時点で既に資金繰りは危うかったのかも知れません。

まあ、本当に資金繰りに行き詰って破産する前に自ら解散を決めただけリンクやレキオス航空よりはマシですが、個人的には「やっぱりな」というのが正直な感想です。エア奄美のホームページを見ても会社概要がなく、社長が誰なのか、出資金はどのくらいあるのか、出資者が誰なのか全く不明。地元の観光協会などの支援はあったようですが、プロペラ機とは言え航空会社の立ち上げには数十億単位の資金が必要なはず。大口の出資先を確保した気配もなかったので、どこまで本気だったのか、資金調達の当てがあったのか、リンクや横浜国際航空を思い出させる不透明さがあったので、エア奄美の就航には懐疑的でした。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 


迷航空会社列伝Lite「飛行機できたら会社が消えた」航空会社になり損ねた会社・リンク


迷航空会社列伝「南の島への叶わぬ夢」航空会社になれなかった横浜国際航空

 

しかし、奄美群島は観光地としては将来有望な地域でもあります。奄美群島が国立公園に指定されて注目度が高まっているうえに、今年は世界自然遺産登録も目指していますので、実際に登録されれば奄美へのパッケージツアーを企画する旅行会社は多いと思います。実際、数年前から航空会社も奄美路線の開拓に動いており、バニラエアは既存の成田~奄美線に加え関西~奄美線を開設。日本エアコミューターも今年から奄美~徳之島~沖永良部~那覇線を開設し、奄美群島内~沖縄への周遊観光が便利になります。世界遺産登録が現実のものとなれば、ひょっとしたら観光需要の増加を当て込んで奄美路線のないANAグループやかつて就航した経験のあるスカイマークも就航を検討するかもしれません。

エア奄美は就航地の場所取りに関しては目の付け所は悪くなかったと思いますが、いかんせん資金力がなかったのが致命的でした。しかし、仮に就航までこぎつけたとしても、既に奄美路線で実績のあるJALグループと勝負になったかは疑問です。ANAやスカイマークが就航となればひとたまりもなかったと思います。そう考えると傷口の浅いうちに「解散」という選択肢を選んだのは不幸中の幸いだったかもしれません。